静かに休みたいだけなのよ!

 忙しい… 忙しいわ… この前まで休みだったはずなのに…


 毎度のドッペルゲンガーです、こんにちは。


 毎週、本体ちゃんと交互に一人語りっぽくなっててごめんなさいね? なんかこう内容によって、語り手に合う合わないがあるらしいわよ、作者的に(?)


 それは置いといて。


 みなさまご存知の通り、私も仕事して生活費を入れないといけないからね。 本体ちゃんの名義を借りて在宅ワークをはじめたわけよね。


 元々普通の人間だった時にもやってたから、前の担当者に他人のていで連絡して、上手く誘導して仕事にありついたわけで。 初心者のフリしながらも、経験者の私は手腕を発揮しちゃってるもんでね、ありがたいことに、仕事の依頼が来るのよ。


 あの子に金銭的な負担をかけたら負けだから! バッグ貯蓄があるとはいえ、そんなに減らせないわ!


 そんな思いで仕事を請け負ってたら、いつのにかすごい量になってたわ…


 で、重なっちゃうと大変なことなってるわけ…


 そう! 今! まさに! 今日締切の仕事が、夜になっても片付かない!


 さすがに今日だけは家事まで手が回らないから、会社から帰ってきたあの子に、夕ご飯は買ってきてしてもらったわ。


 片手間でサンドイッチを食べつつ、カタカタカタカタカタカタカタカタ!!!


 そして… やっと… 納品完了…


 やっと終わったわ… あとは確認待ちだけど、連絡は明日になるわよね…


 うう、目が痛い… ずっとPC見てたからだわ。

 嗚呼、眼精疲労。


 ゴソゴソと愛用のホットアイマスクを出してきて、少しだけソファに横になったわ。


 ああ、癒される、寝てしまいそう… 寝ちゃおうかしら… ソファは良くないわよね… でももう動けない… 寝ちゃ…


 が、しかし、しかしだ。


 視界が遮断されると、他の事が気になるのもなのよ。

 今で言うと、テレビからクイズ番組の音が聞こえてくる事ね。


 ………うん、うん、そうね。


 聞こえてくる問題の答えが分かっちゃう… 思わず答えたくなってしまうわ…


 はっ!


 ちょ、やめやめ! これじゃ休めないじゃないの! テレビを消しましょっと。


 そこらへんに放ってあるリモコンのボタンを押してテレビを消してから、またソファに横になる。


 ふう。


 嗚呼… 珠玉のひととき…


 …


 ん?


 ちょっと、またテレビがついたんだけど?


 あれ、今度は音楽番組? え、まってシャニーズかしらこれ? 新曲ね! チェックしてた通りのアップテンポな曲だわ。 振り付け覚えちゃおうかしら?


 …って、


 頭が全く休めないわ!!(ばあん)


 ってゆーか勝手にテレビが付くわけないし! 本体ちゃんでしょ!? なんでテレビつけるのよ!? 私、消したわよね!? しかもあの子、今、ゲームしてるはずよね!?


 仕方なくホットアイマスクをずらして、床でゴロゴロしながらスマホゲームしている本体ちゃんに訴えかけるわ。


「ちょっと、テレビみてるの?」


『ん~? 見てると言えば見てるぅ~』


 嘘よ、絶対見てない。だってテレビにおしり向けてるじゃないの。


「この番組、畑トモヒロは出てないわよね? つまり見てないわよね?」


『んまぁ、見てないといえば見てないぃ~』


 なんかパズルゲームっぽいのに夢中になってるようだけども… 足をパタパタさせて… ケツ蹴ってやろうかしら…


 はっ! いけない! アンガーマネジメント!

 前回からなんとなくやってるアンガーマネジメント!


 すーはーすーはー


 よし、気を取り直して、再び本体ちゃんに訴えかける。


「見てないなら消してよ」


『え~? なんでぇ~?』


「気になるのよ」


『ドッペルさんの大好きなシャニーズ出てるよぉ?』


「まぁ、それはそうだけど、今は休みたいの」


『ん~、いいけどぉ~』


 やっとリモコンを手に取る本体ちゃん。


 やれやれ、やっと休める…

 アイマスクセット!


 ふう…


 …


 ?


 ん? 何かボソボソ聞こえるわ。


 テレビ消してなくない? 音量小さくしただけじゃない?


 なんでよもう! またアイマスクずらして訴えなきゃじゃないの! ダルいわね!


「いや、完全に消してよ」


『え~…テレビの音がないとなんか淋しいぃ~』


「は? ゲームしてるでしょ?」


『それとこれとは違うしぃ~』


「いや、あの、マジで言ってる?」


『そうだよぉ』


 相変わらず足をパタパタとさせながら答えられるわけだけど…


 うう… イライラしてきた…


 はっ!

 アンガーマネジメント!(?)


 穏やかに、穏やかにね。


「それじゃ、ヘッドホンして… お願いだから…静かに目を閉じたいのよ…」


『ゲームの方でイヤホンしてるぅ~』


「え? それならテレビ要らないでしょ?」


『画面みるぅ』


「ああ… もう… ああ…」


『んにぃ?どしたのぉ~?』


 アンガーマネジメント…

 アンガーマネジメント…

 あんが…


 あ、無理だわ。


 みなさま、先に言っておきますね。


 いまから盛大にキレます。 私のキレ方はどっちかっというと、急に泣き暴れるやつです。あしからず。


「ああああああ!!!」


『ド、ドッペルさん~!?』


 ガバッと起きた私に、流石の本体ちゃんもびっくりしてこっちを振り向くわ。


 怒りで半泣きになってるけど、最大限に訴えてやる!!


「休みたいの!!」


『へ!?』


「音がないところで!」


『う、うん~?』


「疲れたの! ものすごく疲れたの!」


『ず、ずっと仕事してたもんねぇ~』


「静かな所がいいの! でも耳栓とか苦手なの!」


『あ、あ、そうなんだねぇ??』


 いつもと違う様子の私に、本体ちゃんも困惑しているのは分かるけど。 こうなるともう、自分でも止められないわ。アンガーマネジメントどころかもう、泣いちゃうんだから!


「静かに休みたいのよー! えーーーん!」


『ド、ドッペルさん? え!? 泣いちゃった!?』


「ふえええええん!」


『ご、ごめんごめん~。テレビ消すね? ってゆかぁ、もう寝るぅ? おふとん出すぅ?』


「うん… 寝る… ひっぐひっぐ…」


『待っててねぇ~、疲れたんだねぇ~、うん~』


「ふええええん」


 急に泣きわめく私に、本体ちゃんはいつもの2倍速で動き出して、私のお布団を敷き出したわ。


 やれば早いんじゃないのよ… いつもやらないだけで… くっ! まあ、私も今はそれどころじゃないわ。もう疲れすぎて、頭が回ってないんだもの。


 さささっと敷き終わって、本体ちゃんが私の肩に手を置いて、静かに語りかける。


『おふとん入ろぉねぇ?』


「うん、寝る、うん」


 私はノロノロと動いて、敷いてもらったお布団に潜り込む。アイマスクももう冷たくなってきたから、ゴミ箱に放り投げる。


 ゴミ箱まで届かず外れたそれを、本体ちゃんが拾って入れ直してるわわ。


 うーん… いつもと逆だわね。


 でも、今はどうでもいいわ。もう眠たくなってきた。


「おやすみ…」


『はいはい~、おやすみぃ』


 本体ちゃんはそのままテレビも電気を消して、私の枕元に小さく点けたにゃんこライトをおいて、ベッドに入っていった。


 掛け布団を被ってイヤホンをして、引き続きゲームしてるみたいだけど。


 ポチポチとスマホを触ってる感じの音はするけど、それもどうでもいいくらい、だんだんと意識が遠くなってくる。


 意識がなくなる瞬間、私はちょっと後悔したけど。


 今日はやらかした。 いつもの私じゃない。 ああ、失敗した…


 いつになったら入れ替われるのか、それともこのままなのか…


 仕事もしなきゃ… 家事もして…


 終わりが見えない…


 でももう… 今は眠いわ… 考えたくない…


 おやすみ、世界。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る