ベッド脇の避妊具

さっそく部屋の調査を開始したが、俺の反応が遅れたため歩き出したリリィが勢いよく戻ってきてしまった。魔法が発動しないよう一定の距離を保って移動するのが難しい。

手を繋ごう、と言いたかったが急に照れくさくなってしまったのでやめた。

外套の下にリリィの素肌があると思うと、裾をつまむのも気が引ける。


「暗くて危ないし俺の腕掴んでてもいいけど…」

悩みに悩んで腕を差し出すことにした。俺の事は手すりか何かだと思ってほしい。



リリィをエスコートするように、まずは中央のテーブル──燭台が乗っていた円形のテーブルを調べてみる。

丸い天板は思ってたより分厚くて、側面に細かな装飾が施されていた。近くに設置してあるイスも似たようなデザインだ。見慣れない模様なので外国製っぽい。

燭台は俺が持っているので、かがんでテーブルの下を調べてみたが何もなかった。


部屋の隅にはベッドがあった。クイーンサイズなので2人で寝る用に置いてあるのだろう。イスも2脚だったし、2人のための部屋…なのだろうか?

枕のカバーにもシーツにも細かい刺繍が入っている。暗くてよくわからんが高そうだなぁ。


ベッド横にはナイトテーブルがあって、引き出しがついていたので開けてみる。

中には小さな木箱があったので取り出すと、リリィも似たような木箱を見つけていた。俺が見つけた箱よりかなり小さくて、ベッドのヘッドボード部分の棚に置いてあったらしい。

頭の奥で何かがひっかかったが、とりあえず中身は後で確かめることにして調査を続ける。


フットボード側の床にくずかごがあったが中身は空。その横には二人掛けのウイングバッグソファー、ソファーの前にはローテーブルがあり、ローテーブルの上にはグラスと皿が置かれていた。このソファーも二人掛け。うーむ。

見つけたアイテムがリリィの手からあふれそうなので、いったん中央のテーブルに戻ってそこに置いておくことにした。


「ん…?」

天井に何かあるな。燭台を高く掲げてみる。

「あっ……!天井にも照明がありますね。」

照明のスイッチを探して壁沿いに一周してみたが、見当たらなかった。


「もしかしたらあれも魔法で灯すタイプの照明かもしれません……もうちょっと近くで見られたらわかるのですが。」

確かにリリィの目線だとよく見えないだろうな。

「肩車するか?」

「エッ!?いや、いいです、他の手がかり探しましょう!」

しまった。気色悪いことを言ってしまった。

「さっき通り過ぎた衝立のとこ見てみましょうよ!」

リリィに腕を引っ張られて衝立のあったスペースまで戻る。嫌われてはいないようだ。

「ミストフラワーですね。ここは…体を洗うスペースのようです。」

………。

「なんかこの部屋、ベッドとイスしかなくて、宿屋の個室みたいだなって思ったんですけど、宿屋にはこんなスペースないですよね。」

「そうだな…」

冒険者向けの安宿には公衆浴場があるので個室に体を洗う場所はない。

この部屋の内装は連れ込み宿ラブホテルみたいだなと思っていたが、シャワースペースがあるならもうほぼソレじゃねえか…?

今どきは魔法で温水なんていくらでも出せるのに、冷たい水で体を洗わせるというのがいかにもソレっぽい。お互いの体温であたため合うためだ。



あらかた調べ終わったので、中央のテーブルまで戻って集めたアイテムを見てみる。

スライムを倒せそうな道具はないので、リリィの言う通りスライムは謎解きには無関係なのだろう。ただ、木箱からは何か魔力を感じるとリリィが言う。

「とりあえず中を見てみよう」

大きい方の箱の中身は空だったが、底板にふたつのくぼみがあった。

「ベルトを外してここに入れろってことでしょうか?」

「そうか、確かに巻いたベルトの形だ。だけどベルトの外し方がわからないな…」

「こっちの箱も見てみましょう。」

ヘッドボードにあったほうの木箱のフタに手をかけ、中身を取り出し不思議そうに眺める。

「輪っかがたくさん。なんでしょうこれ?指輪にしては大きいし、腕輪にしては小さいし…」

それを見て俺は言葉に詰まった。


そのリングは…男の股間に使うもので、根本まではめると自動的にバリアが展開し、子種が注がれるのを防ぐ魔装具だ。

それがベッドの脇にあったって、完全に連れ込み宿じゃねーか!?


「何かの魔法道具のようですけど、今は動作していないみたいです。」

ここに居てはいけない。頭の中で警告音が鳴り響く。

「か、関係なさそうだな!部屋の外の探索が不十分だしもう出よう」

「どうしたんですか急に?」

リリィの手を引いて部屋から出ようとしたら、箱を持ち出そうとしているのが目に入った。

「それは置いてけ!!」

強い言い方をしたせいでリリィがビクっと怯える目をした。

「…ごめん、とにかく出よう」



しかし、ドアは開かなかった。

ドアノブが動かない。



俺の様子を見たリリィがドアを調べる。

「魔法がかかってます。この部屋の謎を解かないと開かないのかも…」

顔から血の気が引く。閉じ込められたのか。


ドアの前にいてもしょうがないので、テーブルの前まで戻ってきたが、頭が真っ白になって何も考えられない。

「やっぱりこの輪っかが鍵なんじゃないでしょうか?これをはめる場所がこの部屋にあるんですよ。」

どっかにはめるアイテムであるのは間違いないが…そんな無邪気な顔で持つのはやめてくれ。

真実を伝えるべきか。



「リリィ……言いにくいんだがそれはな、避妊に使う魔装具だ」

「ええっ!?!」

リリィの声が裏返る。あまりの衝撃だったのか、持っていた魔装具を放り出してしまい、焦って拾いに行く。

「バッ…離れるなって!」

追いかけようとしたが、それより早く引力が発生してリリィに激しくぶつかってしまい、ベッドの上に倒れ込んだ。

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