勇者様と光の精霊

ルーカスが魔法剣を使ってもMPが減らないのは、あの魔法剣に宿る人造精霊が持ち主から対価を貰う前に消えてしまうからだ。

剣に属性を付与する魔法は剣を構えた時に発動しているから最初の1回だけ使える。


さっき魔法剣に宿らせた雷の精霊オスカが戻ってきた。

"リリィ~~あの人はいにしえの精霊だよ。まぶしくて一緒にいられない"

ごめんね。ありがとう。


人造だからだめなのかと思ったけど、本物の精霊でも無理か……ということは武器を変えても解決しないかも。ルークを加護している光の精霊に、魔法剣の装備中は加護をやめるようにお願いしたら使えるようになるかもしれない。


「少しのあいだ、剣を構えて人形の前に立っててもらえますか?」

「……?」

ルーカスが剣を構えると、光の精霊が現れてクルクルと剣の周りを回り出す。


"わ~っ!!"


オスカが叫び声をあげて魔法杖ロッドの中に隠れてしまった。剣に宿らせたわけじゃないのにだめなの!?


"本当だ、いにしえの精霊だ。並の精霊じゃ委縮してしまう"


シルフが顔を覗かせると、光の精霊が反応した。


"ほう…そこな小坊主、ラールを見ても逃げ出さぬとは…名はなんと申す"

"オレはシルフだ。小坊主じゃねえ"

"シルフとな!?それは風の大妖精の名じゃ。そちのような矮小なものがシルフのはずがない"

"知るかよ。オレが生まれた森では風の妖精はみんなシルフだ"

"なんと…精霊の森の生まれか。我の名はアル=サン・ラール。勇者に祝福を与えし者じゃ"

勇者…!?ルーカスってやっぱり勇者だったの!?


アル=サン・ラールがこちらを向いた。


"なんじゃ!?そこな娘、ラールの声が聞こえるのか"

あ、私はリリィ・レンフォードと言います。

"この者と共に旅する者であろう。たまにいただく光魔法の中に美味なものがあったが、あれはそちの魔法だったのじゃな。森の精霊と共にあるということは、森の民か"


森の民?森に住んでたからってことかな。


あのう…どうして魔法を食べてしまうのですか?

"ラールは何も口にせずとも在り続けるが、無償で力を使い続けるのは疲弊する。そこに光があればいただいておるのじゃ"

ルーカス本人から魔力を取ればいいのでは…?

"ならぬ。加護を与えたのはラールの一存じゃ。この者が望んだわけではないのに対価を得るわけにはいかぬ"


あっ、そのことなんですけど、ルーカスが魔法剣を装備している時は何もしないでいただく…ことは可能でしょうか。

"なぜじゃ。剣士に魔法など必要ない"

"最近の剣士は魔法も使うんだよ。古い精霊だから知らないんだな"

シルフ、だめだよそんなこと言っちゃ

"ラールは歴代の勇者に力を与え、魔を打ち払ってきた。ラールの加護があれば剣のみでも戦える"

"あんたがここにいるってことは、今の世の中に勇者がいないってことくらい気付いてるだろ?"

"それは……わかっておるが………"


アル=サン・ラールはくるくる回るのをやめ、剣先に留まった。


"この者が幼き頃、ラールが宿りし聖なる剣を展示していた博物館で出会ったのじゃ。この者は勇者とはなんの縁もない人の子ではあるが、ラールはこの者が勇者の模倣をして戯れる姿にいたく感動し、ついていくことにしたのだ"


そっか…この精霊さんも寂しかったのかな。勇者が活躍した時代はもう何百年も昔で、現代では話題に上ることも少なくなっている。

それにしても、その頃のルークってどんな感じだったんだろう。見てみたいな…


"よかろう"

えっ!?あれ?これも伝わってる…!?


4,5歳くらいのルークがおもちゃの剣を持って、勇者史料館の中庭で勇者ごっこをしている様子が頭の中に流れ込んできた。後ろで微笑んでいるのはルーカスのご両親…!?


えっ!?えっ!?あ…ありがとうございます!?

"対価はそちの魔力で良い"


力が抜ける。相当量の魔力を持っていかれたのを感じた。


"はぁ~…やはり美味じゃのう"

あの…そんなにおいしいなら、私の魔力を支払うのでルーカスにかかる光魔法を食べるのをやめてもらったり…できますか?

"そちは頼みごとばかりじゃな。考えてやらんこともないが……んん、待て。かなり混じっておるな。そちはほとんどヒトではないか"

あ、そうかもしれません。

"森の民ならともかく森の子なら話は別じゃ。そもそも、この者と血縁があるわけでもない他人から対価をいただくわけにはいかぬ"

"やっぱり古い精霊は融通が利かないな"

"そんなことはない。血縁がなくとも、この者の妻であれば代わりにいただくこともできる"

私は彼の事が好きですけど……それじゃだめですか?

"他人では駄目だと言ったであろう。ん…?森の子よ。おもてをよく見せてみよ"

……?

"森の子よ。そちとは以前にも会ったな。この者がかつて暮らしていた村で見たぞ"

覚えてるんですか!?

"当然じゃ。ラールの力が宿りしつるぎが魔王の喉元を貫いた時のことも昨日のことのように記憶しておる"


「…リリィ、ごめん、いつまで構えていれば?」

「あっ!もうちょっとだけお願いします…」

すっかり話し込んでしまってルークのことを放置していた。


"もうよい、話は終わりじゃ。そちがあの時の娘とは面白い。ラールの祝福を与えてやろう"

本当ですか!?


"ただし、この者と相思相愛になるのじゃ。他人からは対価はとれぬから特別であるぞ。そちがこの者から愛されることが叶えば願いを聞いてやる。魔法剣とやらにもラールの力を与えてやろう"


それだけ告げて、光の精霊は私たちの存在など初めからなかったかのように剣の周りを回り出した。

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