VSウナギ&ペンギン
ほとんど何もしてないのに魔法剣が使えなくなったせいなのか、リリィは俺が構えた剣の先を見つめて押し黙っている。
「おーい、リリィ?」
声を掛けると、重大な悩みを抱えてしまったような顔で振り向いた。
「……魔法剣、使えるようになりたいですか?」
「いや…いいよ。やっぱり俺には向いてないみたいだし。ありがとう」
「そうですよね……。」
「リリィが悪いんじゃなくて、俺に才能がないだけだからさ…」
これ以上俺の都合で振り回すのは忍びない。しかし、帰り支度を進めているとリリィが呼び止めてきた。
「あ……あの!!」
「どうした?」
「あの……もう少しいませんか?ここ、21時まで使えるんですよね。その……私、どうして魔法剣が使えなくなるのか興味があって…」
リリィがすぐそばまで来て、俺を見上げるように訴えてくる。
「ダメ……ですか?」
結局、時間いっぱいまで訓練所を使うことにした。とりあえず他の冒険者の邪魔にならないよう壁際に移動する。
「魔法剣の効果がどのくらいで復活するのか知りたいです。もし今日復活しなかったら、また明日…でいいでしょうか?」
「俺は構わないけど…」
リリィはいいんだろうか。俺から言い出したことだけど、あの時の邪悪な念に支配されていた俺をぶん殴りたい。
「よかった……あ、他にも魔法剣あってたら明日から持ってきてほしいです。」
「あったかなぁ。ちょっと覚えてないから、これ返す時に預けてる武器の情報を確認しておくよ」
ただの剣になっている魔法剣をコンコンと叩いた。
「それにしてもすごい設備だな。ネスタにはこんなとこなかったよな?」
「覚えてないです…訓練所って使ったことなくて。」
「確かになぁ。外に出て低級魔物殴ってる方が訓練になる」
「このあたりだと街はずれでもモンスターなんて出ませんからね…」
喋っていたら近くにいた訓練中の冒険者がチラチラこちらを見てきた。うるさかったかな。
「あのう…もしかしてルーカスさんとリリィさん…?」
「え。そうだけど」
「わあ!そうかなって思ったんですけど、こんな初心者向けのところにいるわけないかと…!」
「俺も訓練だよ。今は休憩中だけど」
「お暇だったら剣術教えてくれませんか!?」
「えぇ…?」
リリィの方を見たら、やれ!という顔でコクコクうなずいている。
「じゃあ、まあ、少しだけなら…」
◇
「本当にありがとうございました!!ぼく、今日の事忘れません!!」
初心者剣士は元気よく階段を駆け上がって行った。
「ふふっ。ルーカスは教えるの上手ですね。」
「いやー、疲れた。モンスター斬ってる方が何倍もラクだよ……」
「じゃあ私たちもそろそろ……あ。」
「あっ」
魔法剣のことを忘れてた。慌てて取りに戻る。
見た感じでは変わったところはない。
「これってどうなんだろう?復活してるのかな」
「所有者の『攻撃の意思』に反応して魔法が発動するタイプなので、復活してるかどうか判断するには訓練人形前で構えてみないと。」
\ピンポンパンポーン/
「まもなく21時になりまーす!お忘れ物なきようお帰りくださーい!」
伝声管から受付嬢の呼びかけが聞こえる。
「あー…今日はここまでにしとくか」
「そうですね……」
管理局の1階に戻り、魔法剣を預けるために受付に向かうと…リリィが俺の手を掴んだ。
「まだ時間ありますか?」
「え?まぁ寝るには早い時間かな」
「20分…10分でいいので、夜間外出許可取ってくれませんか。」
一般市民の場合、夜間は街の外に出られないが、Sランク以上の冒険者の同行があれば出られる。行き先と目的を告げる必要があるが。
「武器として攻撃に使うとそのぶん熟練度が貯まっていきますよね。1回ずつでも。もしその剣が使えるようになってたら、いま振っておかないともったいないですよ。」
「うーん…それもそうか…?でも10分そこらじゃモンスターが都合よく見つからないだろ」
「私が的を作りますので。」
意味がよくわからなかったが、街中で剣を振り回すわけにはいかないのでとりあえず申請書を書くことにした。リリィが横から口出ししてくる。
「"外壁横"、"訓練"、"10分"で!」
◇
夜間外出許可の申請を終え、ここから一番近い門を通って外に出た。
「それで?どうするんだ?」
リリィはロッドをゆらりと動かし、空中に水を出した。その水がうねうねと形を変えていく。
「…ミズウナギか?」
「そうです!」
表皮がすんごいヌルヌルしてて物理攻撃が効きにくいモンスター。電撃が弱点。
「これを斬るつもりで雷の剣を構えてみてください。」
なるほど。見た目がそれっぽいので実感が沸く。
「お……!」
ミズウナギに向かって剣を構えたら青白く光った。
「これは……1時間か2時間くらいで復活したってことですかね…?」
「たぶんな」
リリィが作ったミズウナギっぽい水を斬りつけた。長い身体にびりびりと電撃が走っていくのが見える。
「同じタイプの魔法剣なので、炎の方も使えるようになってるはずですよ。次はそっちでお願いします。」
びりびりしていたミズウナギの先端が細くなり、奥の方は太くなった。横から羽根のようなものが伸びてきたと思ったらたちまち凍り付ついた。
「これはアクトクペンギンか?」
「そうです!良かった、伝わって。」
アクトクペンギンは凍った嘴を向けて突進してくる極めて凶悪なモンスターだが、嘴の氷を溶かせば大人しくなる。
「うまく作れなくて全身凍ってますけど、とりあえず嘴だけ叩き折るつもりでやってみてください。」
炎の剣を構える。動かないアクトクペンギンなんて楽勝だな。
そのまま燃える剣を振り下ろした。
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