VS訓練用アンデッド
冒険者管理局の受付で預けていた魔法剣2本を受け取り、訓練所の利用申請を出す。
地下へと続く階段を降りていくと、いかにも駆け出し冒険者といった風体の若者が訓練用の人形相手に武器を振っている様子が目に入る。
主に初心者向けの施設なので、この街の訓練所を使うのは初めてだった。
「空いてますね。良かった。」
リリィが包帯でぐるぐる巻きにされた人形の前に駆け寄り、スッと自分の武器を取り出して人形に攻撃を加えた。
たちまち人形が燃え上がり、灰となって消滅したかと思うと、数秒後には元通りになった。
「あ!すごい、これ、包帯まで再生されてますよ。」
リリィが嬉しそうに人形を見せてくる。無属性攻撃を受け付けないアンデッドを模した訓練用人形だった。下の方に『聖職者利用禁止』と書かれたタグが取り付けられている。
「アンデッドは光属性の攻撃じゃないと完全には消滅しませんから、その仕組みを再現した人形なんですね。よく出来てるなぁ…」
リリィには夕食時につらい話をさせてしまったが、今は元気になっているようで安心した。貴重な時間を使わせるのだから、今日のうちに聞きたいことを全て聞いておこう。
「早速だが使いたい武器はこの2本だ」
炎属性と雷属性の魔法剣をリリィに見せる。
炎の方は火が扱えると単純に便利だからで、雷の方は麻痺の追加効果が見込めるからだ。日ごろ使っている武器と同程度の火力が出せるようになったら常用したい。
「これって店で売ってるものですか?」
「武器屋で取り扱ってるごく普通の魔法剣だよ」
リリィが2つの剣をまじまじと見つめる。
「特に教えることはないですね。万人向けに最適化してあるので、MPがあれば使えるようになってますよ。ええっと…ナビストーンと同じです。あれも魔法で動いてますけど、魔力を充填しておけば誰でも使えますよね。」
「ああ~…」
俺が使っているナビは定期的に魔力充填機に繋がないと使えなくなるが、魔法職でMPが高い冒険者であればMPの自然回復量がナビの必要魔力を上回るので、充填機がなくとも利用できるらしい。ナビが魔力切れしそうな時は魔導士に頼めば充填してもらえる。
「ってことは、俺のMPが低すぎるからすぐに使えなくなるのか…?」
「今いくつですか?」
「えーっと。…20だな」
ナビで自分のステータスを表示してリリィに見せた。
「それだけあったらジャケルメロンの果肉を燃やすには十分だと思いますけど……こっちの剣が、すぐ使えなくなってしまったっていう剣ですよね。」
リリィは俺の手から炎の剣を取り上げたが、重かったようですぐに返してきた。
「……何分くらいで使えなくなったかって覚えてます?」
「う~ん…時間は覚えてないけど、最初の1、2個くらいかな。使えたのは」
少し考え込んだあと、人形を指さして言った。
「じゃ……とりあえず訓練人形を斬ってもらえますか?炎の方で。」
雷の剣の方を壁に立てかけておき、炎の剣を構えた。
剣に炎が宿る。
そのまま人形に向かって振り下ろした。
人形に巻かれた包帯が切断され、その切り口から炎が燃え上がり全体に巡る。
横目でリリィを見ると、不可解なものを見たというような顔をしていた。
人形が再生したのを見てもう一度斬りつけようとした時に、魔法剣の炎がなくなっていることに気づいた。
「…あぁ、もう使えなくなってる」
一応この状態で人形を殴ってみたが何も起きなかった。
「あの。雷の剣も使ってみてください。」
壁に立てかけてあった雷の剣と炎の剣を取り換え、再び人形の前で構えた。
剣が電流を帯びて青白く輝く。
人形を斬りつけると、包帯に焦げ目が入り、じわじわと崩れるように焦げ跡が広がっていく。それと同時に剣が纏っていた雷も消えていた。
リリィは先ほどと同じような表情をしている。
「…やっぱり俺には魔法適性はないみたいだな。リリィ、時間とらせてすまん。俺はもう諦めようかと…」
「…違います。適性がないわけじゃないです。えっと…なんて言えばいいのか…」
苦い顔で剣を見つめながら、思索を巡らせているようだ。
俺はリリィの言葉を待った。
「えーっと…魔法剣って、本物の精霊石がはめこまれているものもありますか?」
「あるけど値段はこれの20倍くらいだな。それに今のランクだと装備できない」
「じゃあ…フレイムシルクレテの甲羅とか、炎属性の素材を切り出して剣に加工するとかは…」
「そこまでして使いたいわけじゃないからなぁ。やっぱりいいよ。飯は約束通りこれからもおごるから…」
「少し訓練…というか工夫したら使えるようになるかもしれないんです。ステータスを確認してみてください。」
「あれ、MPは20のままだな?」
「MP切れで使えないわけじゃないんです。さっき見せていただいたステータスによると魔法剣士としてのランクはDでしたよね。それなら20分に1ポイントMPが自然回復するのですが……」
「減ってないのか!」
「はい。まだ20分も経ってないですし、自然に回復したわけじゃないです。魔法剣を使ったのにMPが減ってません。」
「あれ?じゃあなんで魔法が発動したんだ?」
「それは…えーっと……精霊が……」
リリィはうまく説明できないようで、言葉を詰まらせる。
「すみません。また剣を構えていただいてもいいですか?」
ただの剣になってしまった雷の剣を構え直すと、剣を握る俺の手の上にリリィが手を重ねた。
すると再び剣が青白く光る。
「…これは魔法剣じゃなくて私の魔法です。この状態で人形を斬ってみてください。」
リリィの魔法が宿った剣を振るうと、人形の包帯が焼けこげ、剣は光を失った。
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