無骨な男

宿屋でリリィたちと別れたあと、女性陣が狭いベッドにぎゅうぎゅうになって寝るというのに俺が1人でベッドを使うなんて贅沢じゃないのか…と躊躇していた。

そしてリリィのあの発言はどういうつもりだったんだ。やっぱり俺のことが好きなのか?気になって眠れそうにない。


「ええーっここも満室!?全滅だよ…」「メロンと追いかけっこして超疲れてるのに…」

獣人の一行がカウンターの前でうなだれているのを見つけ、俺は彼らに予約していた部屋を譲って宿を出た。


商店街の方まで歩いていくと、消防団の制服を着た男が何やら叫んでいる。

「Sランク冒険者の方!ジャケルメロン処理のご協力をお願いします!Sランク冒険者の方~!」

どうせ暇だし行ってみようか。

消防団の男が手に持っていた看板に『リキャント広場にて⇒』と書いてあったので広場に足を運ぶことにした。


「街の外壁の修復補助と、ジャケルメロンの後処理にご協力いただける方を探しております。夜間の野外作業は大変危険ですので、Sランク以上の方限定で協力を要請しています。IDカードの提示をお願いします。」

俺はナビの身分証ページを開いて係員に見せた。

「ルーカス・アルホフさんですね…ご協力感謝いたします!ナークワアガ方面の街道は再結界化の作業中ですので立ち寄らないでください。落ちているジャケルメロンは焼却していただくか、拾ってこちらの麻袋に入れてください。また、作業中はこちらの腕章を着けていただき、作業を終えられる時に麻袋と一緒に返却してください。」



いちいち拾うのはダルそうなのでジャメロを燃やせる武器に替えるべく冒険者管理局へ向かうと、抱き合う男女の姿が目に入ったので思わず近くの建物の陰に隠れてしまった。

筋骨隆々の無骨な雰囲気の男と、小柄な女が往来でキスを……って、あの後ろ姿はウルランタじゃないか!?


息をひそめて覗き見ていたら、男がウルランタから顔を離した際に目が合ってしまった。慌てて引っ込み、回り道をして管理局に向かい、武器を取り換えて街の外に出た。



封鎖されている街道には立派なローブと魔法帽を装備した魔導士が立っていて、何やら呪文を唱えている。その彼を守るように数名の騎士が取り囲んでいた。

外壁の修復補助って何をやればいいんだろうなと考えながら歩いていくと、崩れた壁の前で職人が作業をしていた。近くに消防団の制服を着たスタッフがいたので話を聞くと、ジャケルメロンを処分しつつ、魔物が沸いたら撃退して職人を守って欲しいと言う。そういう内容なら魔法剣にするんじゃなかった。俺の魔法剣士としてのランクだと戦力外だ。


持ってきた魔法剣が早々に使えなくなったので黙々とジャメロを拾っていると、ウルランタとイチャついてた無骨な男が反対側から歩いてくるのが見えた。腕章をつけている。

「あ……」

声に出してしまった。これじゃさっき覗いてたのがバレる。

「あ、どうも、さっきはお恥ずかしいところを……」

なんだ、いい奴じゃないか。良かったなウルランタ。


「実はさっき一緒にいた彼女に求婚されまして。」

「それは…おめでとうございます…?」

俺がウルランタの知人だと明かした方がいいんだろうか。

「いやぁ…彼女を幸せにする自信がなくて、断ってしまいました。」

そういやノーラの話だと今日出会ったばかりか?それでいきなり求婚は断られるだろう。


「すみません、いきなりこんな話して。ちょっと誰かに聞いてもらいたくて…」

「構いませんよ。どうせ暇ですし」

自分は知人だと明かさない方がいい気がしたので黙っておくことにした。

「彼女…ウルラとは…出会った瞬間に電撃が走ったような感覚がありまして…一目惚れっていうんですかね。」

しばらくの間、無骨な男の話を聞きながら共にジャメロを拾ったりモンスターを倒したりした。こいつがいて助かるな。


「知り合ったばかりなのに息がぴったり合って、私の欲しいところにウルラの攻撃が飛んでくる。そんな経験初めてで、生涯彼女と共に戦いたいと思ったのですが、彼女の求める条件が厳しくて…」

街の暮らしに慣れてると密林の里で暮らすのは辛いよな。

「自分に経験がないのがいけないんですが、練習を積むわけにもいかないですし…」

密林の猛獣退治クエストなんてこの辺りじゃなかなか出ないからな…

「見ず知らずの俺にそんな話をするってことは、後悔してるんですね」

「そう…なのかもしれません。」

ここまで真剣に考えてくれる奴は他にいないんじゃないのか?


ウルランタがパーティ加入したその日、体術の訓練に付き合って欲しいと言われ快諾した。俺は剣術専門だが体術もそれなりに自信があって、女相手なら余裕だと思っていたのだが、彼女は本当に強くて本気を出さねば殺されると思い、訓練だと言うのに叩きのめしてしまった。マズイことをしたと思ったが、ウルランタは嫌な顔ひとつせず、それどころか結婚して欲しいと言ってきたのだ。

ビビって断ったけど、ちゃんと話を聞いてみると彼女なりに真剣に故郷の将来のことを考えているということを知った。とはいえ自分が婿になる気はないので顔見知りの冒険者で良さそうな奴がいたら紹介したりしているのだが、ここまで悩んでいる男は初めてかもしれない。里の話を聞いただけで大体の男は逃げ出す。俺も嫌だし。

ウルランタがギルドから抜けるのは少し痛いが、この男なら一緒に里で暮らしてくれるんじゃないか?


「人に話したらすっきりしました。ありがとうございました。」

後押しすべきか悩んでいるうちに、話すだけ話して満足した男が去って行った。

袋もいっぱいになってきたし、1人だと危ないので街に戻るか……

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