魔法談議

ルーカスが何も答えない。どうしよう。

私はルーカスとひとつのベッドで寝てもいい。そう思ったんだけど、ルーカスにとっては迷惑だったかも。


変なこと言うんじゃなかったと後悔しかけたところに、馴染みのある声が聞こえてきた。

「あれ?ルーカスじゃない。戻ってきてたの?」

魔導士ノーラと戦士ウルランタがこの宿に入ってきた。ウルランタは大きな袋を担いでいる。

「お前たち!ちょうど良かった、宿取ってないか?」

「ルーカスもツォクシで足止め食らってるんだね。私たちも2人でひとつのベッド使う予定なんだけど。」

「あっ!リリィちゃん!」

ウルランタがルーカスの後ろにいた私に気付いて、その声を聞いたノーラも私の方を見た。

「あー、リリィだけならいいよ?ウルラもリリィも小さいしギリギリ寝られると思う。」

「良かった、リリィを頼む。宿代は活動資金から出しておくから」

心底ほっとしたようなルーカスの顔……。やっぱりマズイこと言っちゃったんだな。

「そーだ、ちょうど良かった。ジャメロの駆除で参加してたパーティが解散したからさ、そっち入れてよ。」

「ああ。申請してくれ」


* ノーラ さんがパーティに参加しました

* ウルランタ さんがパーティに参加しました


「ありがと。荷物置いたらごはん行こうと思ってたんだけど、ルーカス達もまだなら一緒にどう?」

「俺たちもまだだ。飯代も出すよ。」

「やった♪」

「じゃ、ウルは荷物おいてくるね。リリィちゃんのも預かるよ?」

「ありがとうございます。じゃあこれを。」

ウルランタに手荷物を渡すと、軽々と抱えて宿の奥へと消えていった。背丈は私と同じくらいなのにすっごく力持ちだ。

「私たちはお店探そ。ジャメロのせいでどこも人多くて混んでるんだよね…」


数軒回って4人席が空いている店を見つけて席に着くと、ウルランタからパーティチャットに連絡が入った。


* ウルランタ:ゴメン!急用です。3人で食べてて


「何かあったのかな?」

「あー、あれよ。婿探し。今日一緒にジャメロ駆除してたメンバーの中にいいひとがいたっぽい。」

「ああ…」


* ルーカス:了解


ウルランタは南東にある密林の奥深くに棲むウルグラ族で、ウルグラの里では15になった娘は旅に出て、その娘より強い男を探し、婿として里に迎えなければならない…という掟があるらしい。現代ではそこまで掟が重要視されているわけではないみたいなんだけど、里のみんなが大好きなウルランタは里の繁栄のために運命の相手を探していると語っていた。同じパーティになることが少ないのであまり話したことはないけど、ウルランタを見ているとマノンを思い出す。


「ねーそれより遠征どうだったの?」

「いい助っ人が来てくれたんで危なげなく倒せたよ」

「ハラレロドラゴンだよね?!もっと近くだったら私も行きたかったなー。」

ノーラとルーカスの会話を聞きながら黙々と食べ続けた。



宿の浴場にノーラと一緒に向かったけど、ウルランタはまだ帰ってこなかった。

「帰って来なかったらベッド2人で使えるね♪」

帰ってこないってことは……将来の婿と一晩過ごすってことかな。

ルーカスに一緒に寝ようと提案してしまったことを唐突に思い出して頭を抱えたくなる。のぼせそうになったので先に出ようとしたら、ノーラに「部屋にあるアイテムを乾かしてほしい」と頼まれた。

ノーラから預かった部屋番号の個室に入ると、空の麻袋の上に濡れたアイテムが並んでいる。


ノーラの得意魔法は水と氷。ウルランタの愛用武器は鞭。大量発生したジャケルメロンをまとめて大きな水で包んで、ウルランタの鞭で割ったんだろうなと察する。

これだと果肉が地面に落ちないし賢いやり方だな。でもそのせいで中身のアイテムが濡れちゃったんだね。

入口の横にウルランタが運んでおいてくれた私の魔法杖ロッドが立てかけてあったので手に取り、風の精霊シルフ火の精霊パイラを呼び出して温風を作り出し、部屋の中を循環させる。


乾燥中のアイテムにぶつからないようゆっくり移動してベッドに腰掛けた。

3人で寝られる大きさかなこれ。ウルランタが帰ってきたら隅の方で縮こまって迷惑にならないようにしよう。



しばらくして部屋のドアがノックされたので、風の魔法でドアを開けるとノーラが入ってきた。

「お。やってんね。ついでに私の髪も乾かしてほしいな~」

あ、そうか。確かに。

私もタオルでまとめていた髪を下ろし、ノーラと一緒にそよそよと風にふかれてみた。

「やー、リリィと同室だと得だわ。ジャメロの中身もそろそろ乾いたかな?」


ふわふわ浮かんでいるアイテムを回収していくノーラ。

「ばっちりだ。ありがと!どれでも好きなのひとつ貰ってっていいよ。」

「いえ、このくらい、お安いご用です。」

「そ。」

ノーラはアイテムを袋に戻し、書き物机のイスに腰掛けた。

「ねえ。まだ寝ないよね?新しい魔法道具考えたから魔導士としての意見が欲しいんだけど……」

ノーラとはたまにこうやって魔法談議に咲かせている。私はルーカスのために力を使うことしか考えてないので、他の冒険者の役に立つ魔法道具を作るノーラには頭が下がる。本人はただの趣味だと言ってるけど、無趣味で休みの日は魔法の練習くらいしかすることがない私からするとかっこいい。


私もいい加減ルークを諦めて他にやりたいことを見つけるべきかもしれないけど、このギルドが私を必要としてくれている以上はしつこく居座り続けたいなと思った。

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