サブマスター
あれからまた数か月が過ぎ、うちのギルドは高難易度のクエストを中心にこなすようになってきていた。相変わらず私はルーカスのことが好きだったけど、ギルドのメンバーと必要以上に親しげな様子を見ても平然としていられる程度には成長していた。
「今月は遠征が続くな。リリィも他にやりたいクエストがあったら残っていいんだぞ?」
遠征の準備中、ルーカスが私に話しかけてきた。
ナークワアガの冒険者管理局には毎日たくさんの依頼が届くので、遠征に参加するより拠点に残った方が効率よく稼げるんだけど、私は毎回ルーカスに同行している。
このギルドは依頼料が安いせいか、遠方から依頼があることも少なくなかった。
「遠征になるようなクエストって、うちのギルドを指名してくれてる依頼ですよね。それならなるべく多くのギルドメンバーが行った方がいいんじゃないかと思って…迷惑ででしたか?」
「いや……」
ルーカスが私の顔色を窺っている。ルーカスは私の表情から感情を読み取ってくることが多いので、ごく自然に無表情で見つめ返した。恋心を自覚した日から気持ちを顔に出さないように心掛けているのだけど、本当はルーカスと一緒にいたいだけだということがバレてないか不安になる。
「それならさ、サブマスターやらない?」
「え。サブマスター……ですか」
思ってもみない言葉だった。
「リリィの言う通り、遠征になるとほぼ毎回現地で臨時メンバー募集してるだろ。あんまりギルドとしての活動っぽくないなと思っててさ…」
本心を隠すために適当にこじつけた理由だったけど確かにそうだ。
一応、現地でパーティメンバーを募集しても参加者が来てくれるのはうちのギルドの知名度があってこそだけど、『ルーカスのギルド』として受けた依頼なのにギルドメンバー以外の方が多い時もある。
「ギルマスとサブマスが2人して来てるならなんとか体裁を保てると思って。他に手伝ってもらいたいギルドの仕事もあるし、受けてくれると助かるんだけど」
うれしい。他に適任がいなかっただけだろうけど、私を選んでくれたという事実がうれしい。
「や…やります!任せてください。」
「ありがとう。そういや未だに敬語だなぁ?これからは対等な立場ってことで、友達みたいに話してくれていいし、何ならルークって呼んでくれてもいいぞ~」
ルーカスがへらへらしながら言う。
ルーカスじゃなくて、る、ルーク……心の中で呼んだだけでもドキドキする。無理。
「え……それは遠慮します…」
「そ、そうか……」
あ…落ち込ませてしまった。恋愛感情を抱いていることは知られたくないけど、嫌われてると勘違いされたくはない。
「いえ、あの、違うんです。私、ルーカスのこと尊敬していて…馴れ馴れしく話すなんて恐れ多くてできません。壁を感じさせてしまっていたら誤解です。」
これは本心。だからきっと伝わるはずだと思って、ルーカスの目を見て答えた。
あまり表情を読ませないと逆に怪しまれるかなと思って、偽りのない言葉を伝える時はこうしていた。
「壁というか…リリィだってもう立派な冒険者だから、かしこまらなくていいんだが……」
ルーカスは少しだけ寂しそうな顔をする。返答まちがえたかな。ルーク、ルーク、ル……やっぱだめだ、恥ずかしい。こんな気持ちで呼んだらバレそう。
「……。まあリリィが話しやすい言葉で構わないよ。じゃ、また後で」
* リリィ さんにサブリーダー権限が付与されました
ルーカスは、私が遠征についてくるのは自分に義理立てしているからだと思っているみたい。サブマスター承諾を「助かる」と言ったのだって、私に借りを返させて、自由にしてあげようと思ってるんだ。
この人のためなら命だって投げ出せると思うほど恩義を感じているけど、こんな重い気持ちは迷惑なんだろうな。
◇
クエスト地へ向かう馬車に揺られながら、サブマスターとして手伝ってほしい仕事について、ル…ルーカスに教わる。
「最終的には俺が面談して決めるから、そんなに気負わなくていいよ。明らかに条件外の人だけ弾いてくれたら助かる。拒否する時は一応メッセージを……」
私が所有するナビストーンを使っての説明だから距離が近い。同じ馬車に他のメンバーも乗ってるから、絶対に表情を崩せない。平常心、平常心。
「とりあえずこんな感じかな。後でわからない事が出てきたら遠慮せず聞いてくれ。サブマスになって遠征が断りづらいかもしれないけど、他のクエストに行きたい時はそっち優先で構わないから」
「わかりました。」
表情を変えずにそう答えたけど、他にやりたいことなんてない。
…このギルドの
最大のメリットは好きな人のそばにいられるってことなんだけど。それは言えないので、ルーカスを含めた
* リリィ:今日からサブマスターになりましたのでよろしくお願いします。
ギルドチャットにメッセージを送ると、馬車に同乗しているメンバーからつっこみが入った。
「いや遅!通知来たからもう知ってるし!」
「こういう時ってギルマスから俺らに紹介するもんじゃね?」
真面目に挨拶したつもりだったけど笑いが起きている。
「すみません。ご挨拶が遅れて…」
「いいよーこれからは友達誘いたい時とかリリィちゃんに言うねー」
「はい。そうしてください。」
「いやマスターの俺がいるときは俺に言ってよ!?」
ルーカスも笑っている。遠征パーティの皆は至らぬ点ばかりの私にもあたたかく接してくれる。言葉を交わした回数は少ないけど、これまで何度も一緒に戦ってきた仲間なんだ。ルーカスの事がなくても…私はこのギルドが好きなのかもしれないと思った。
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