第一章 2人組専用ダンジョン side:Lil
冒険者と精霊
ギルド結成から4年。
マスターもサブマスターも遠征で不在となると不便なので、今ではサブマスター2人体制だ。
私が遠征に行かない時はもう1人が行くことになっている。でも、彼は馬車での移動が苦手らしいのでサブマス2人の間で遠征担当と拠点担当として協定を組み、心置きなく私がルーカスについていけるようになった。
そして、うちのギルドは冒険者の番付に名前が載るようになってきた。4年でここまでくるのは早いほうだと思う。
私もたくさんの冒険者を見てきて、精霊を装備に宿している人は強いというのがなんとなくわかったので、ギルド加入時やクエストメンバー募集時の面談に同席して、精霊がついてる冒険者がいれば「この人がいい」と助言していたのが功を奏したみたい。
名指しでの依頼もますます増え、ハラレロドラゴンという強大な魔物の討伐依頼まで来るようになった。依頼のあった土地への移動に3日ほどかかるため遠征になる。
いつものように臨時メンバーとしてのクエスト参加者募集を募集すると、いつものように応募が殺到した。活動拠点からかなり離れているのにこの評判はすごい。
で、今は無事ドラゴンを討伐し、それを祝う宴に招待されていて、依頼主である町長のアラモトさんがパーティメンバーに飲み物を注いで回っている。
一泊して明日の朝帰ることになったため、私たちも宴に参加することになってしまった。ここの近辺は街道が整備されてなくて馬車の本数が少ないせいだ。いつもなら仕事が終わったらすぐ拠点へ帰るから、あまりこういう経験がなくてだいぶ居心地が悪い。ギルドのメンバーとならクエスト外でも話せるようになってきたけれど、今回のような臨時メンバーの前だと緊張してしまう。とりあえず出された料理を食べることに集中した。
「いやぁほんっとかっこよかったっす。あのルーカスさんの剣技が間近で見られてほんとカンドーっす。」
でも、ジェスタンさんのルーカス評はちょっと興味深い。モンスターの行動パターンを熟知しているみたいだとか、弱点を的確に狙ってるとか、1回しか一緒にクエスト参加してないのにルーカスのすごさが伝わっててうれしい。盾役の人って前衛職をよく見てるんだなぁ。
「回復されてたことに気付かなかったなんて初めてっす!エルフのお姉さんもすごい魔導士なんですね!」
…ジェスタンさんが今度はサレサンバレータさんを褒め始めた。
本物の無詠唱の人は私も初めて見た。
私がルークの精霊と話が出来ていたら改善するかもしれないんだけど、あの精霊はルークが武器を構えている時──つまり戦闘中にしか姿を見せないので話す機会がない。未だに名前も知らないし、いつかちゃんと話がしたいな……
そんなことを考えながら黙々と食べ続けていると、おなかいっぱいになってきてしまった。まだまだ宴は続きそうな気配があるので、もっとペースを落とさないと。どの料理もおいしいからついつい食べ過ぎちゃった。
◇
提供された料理を食べ終わったのでお開きかなと思ったら、場所を変えて飲み直そうという話になっていた。
ちょっと食べ過ぎて苦しいし、食事を共にしても緊張が解けなかったのでもう一人になりたい。
「あの…私はもう寝ますね。みなさんは楽しんできてください。」
「あらやだ、未成年だっけ!?」
「いえ、18になりましたが…ちょっと疲れてしまって。せっかく誘ってくださったのにごめんなさい、また機会がありましたら。」
「えぇリリィさん来ないんすか!?一杯だけでもダメっすか??」
「あっ……えっと……」
ジェスタンさんが私の腕を掴んで子犬のような目で訴えかけてくる。
一杯だけ飲んで帰るなんて余計疲れそう。無理だ。
ちらりとルークの方を見たら、背負っていた荷物を下ろして私とジェスタンさんの間に割り込むように手渡してきた。
「リリィ、宿に行くなら俺の荷物預かっててくれ。」
ルークは「さ、行くぞ」とジェスタンさんの肩を叩いて店を出て行った。
助かった。ルークの鞄をぎゅっと抱きしめる。
サレサンバレータさんは意味ありげに微笑みかけてから、2人の後を追って出て行った。
今日は都合よく回避できたけど、あまり断ってばかりなのもよくないよね。
でもとりあえず今日は宿で休もう。
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