暗号解読

ナビストーンも無効になっているなら魔法が使えないのは確定っぽいけど、魔法以外も無効になったものがあるかどうか試してみたい。

「殴ってもいいですか?」

「なんで!?ごめんて!冗談じゃなくて本当にそういうダンジョンだと思ったんだって!」

「あっごめんなさい。武器の性能が有効なのか確認したくて…」

ルーカスを連れてダイニングテーブルまで戻り、イスに立てかけておいた魔法杖ロッドを手に取る。

「この杖の物理攻撃力は3で、私の筋力ATKは12。装備品による補正もありません。これで殴っていいですか?ダメージがルーカスの装備品込みの防御力と照らし合わせて妥当かどうか教えてください。」

「え…いいけど…」

杖でルーカスの肩のあたりを思いきり叩いてみた。

「どうですか?」

「ん~。ダメージ0だな。距離が近いから振り下ろせてないし、妥当かどうかはわからない」

「そうですか…」

ルークも自分の武器を手に取った。

「スライムは斬れたけどダメージは入らないから参考にならないな。だが、使った感覚は普段と変わりなかったし、武器としての性能は変わってない気がする」


私もそんな気がしてきたので、魔法だけが無効になっているって前提で考えてみる。

魔法が無効だと、クエストリタイアができない、照明がつけられない、スライムが倒せない…これは装備品によっては倒せるから除外。魔法属性の付いた武器はたぶん無属性になるけど、溶けない氷を使ったアイスソードみたいな、自然素材のものなら倒せそう。


照明…この暗い部屋に、まだ何か隠されているのかも。

じーっと燭台を眺めていたら、ルークがつぶやいた。

「これ、消える心配はないけど、どれだけ時間が経ってるのかわかんねえな」

「あ…!確かに。本物の炎なら蠟を使い切ったところで終わりです。眠気が来ないのもお腹が空かないのも、時間経過をわかりにくくしているのかも……」


でも、時間経過がわからないのがどう謎に繋がっているのかがわからない。

引き合うベルトにこの燭台…ダンジョン製作者が許可した魔法だけが動作している。あの魔装具も有効なのか気になったけどさすがに言えないな…


ベルトに視線を落とすと、バックル部分がほんのり青く光っているように見えた。

両手でバックルの向きをこちらに向けてよく見てみたら、光ってなかった。

横にいるルークのベルトも見てみたけど、特に変わった様子はない。

暗くて見間違えたかな…


私は燭台を手に持った。

「もう一度この部屋を調べたいんですけどいいですか?」

「ん」

ルークが腕を差し出し来るので触らせ…掴ませてもらう。


あれ。

ルークのベルトのバックルが淡い光を放っているのが目に入った。

燭台をなるべく遠ざけてみたけど、やっぱり光っているように見えるし、青っぽい色なので燭台の炎が反射しているわけではない。私のベルトも同じように光っていた。


そっか、さっき光が消えたのはルークから手を離したからなのか。

2人が触れ合ってると反応する…?それってやっぱり……。

いやいや、違うよね。それにこの感じは魔法が発動したというより、発動する条件の判定に入っているという感じだ。発動条件を満たせばベルトが外れる仕組み。

日ごろモンスターを殲滅することしか考えてない私だけど、魔法道具にも多少興味を持っているのでこれくらいはわかる。


とりあえず、イスを天井の照明直下まで動かし、それに乗って天井の照明を調べてみた。

「見えるか?」

「あ……ハイ。やっぱりこれも魔法で点灯するタイプのようです。」

魔法が使えないので部屋はこれ以上明るくならない。うんうん、きっと部屋自体に何か秘密が隠されてるんだ。

イスから降りる時にルークが手を貸してくれて、ベルトの光がさっきより強くなったのが見えた。何か模様のようなものが浮かんでいる。淡い光なので不明瞭だ。燭台の火をもっと遠ざてからよく観察してみよう。急いで燭台をテーブルに戻した。

「ど、どうした?」

「…………3?」

「3?」

ルークの手を離さずに、空いてるほうの手でバックルを示した。

「この模様みたいなの、数字の3かなって…」

「んん?んー…そういや、フィンクス文字の3に似てるな」

「これはフィンクス文字のルーツになっている、古代ププテトの象形文字だと思います。」

教科書に載っていた情報によると、大魔導ユピトは古代ププテト出身。ププテト文字は魔導書にも出てこないような古い文字だし、一見しただけでは文字には見えないから、暗号としては最適。

バックルの上半分に大きな模様が入っていて、それがおそらく数字の3。

その下の細かい模様も恐らく古代ププテト文字だろう。この模様は…

「あれ?これって家具に入ってる模様と似てる?」

「そう!そうですよね!?謎が解けそうです!」

部屋にある家具に入っている模様部分をよく見てみると、どうやらププテト文字でそのモノの名前が刻んであるようだった。


部屋中の家具を調べて回り、ベルトの文字と一致する模様から文章を推測する。

どうやらベルトには『3■■』『体を繋ぐ』『キス』と書いてあるということがわかった。


……あれ、やっぱりここってそういうダンジョンなの?

この程度の暗号だったら難易度5くらいだよ。暗くて探しづらいからプラス1、行為に至るまでの難しさでプラス2されてる?私にとっては2どころじゃないんだけど………


「ベルトの文字が読めたのか?なんて書いてあったんだ?」

「ルーカス……」

言葉に詰まってしまう。

長い沈黙。


──謎ガ解ケナケレバ 最悪シニマス


あの警告文が頭に浮かんだ。ルーカスをこんなところで死なせたくない。

恥ずかしがってる場合じゃない。


「ルーカスの……言う通り、でした……。」

「え…?」

ルーカスの手を取る。

「あの。そういう行為をして、き、キス……するのが条件みたいです。とっ、とりあえず、シャワー……浴びていいですか……?」

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