このダンジョンは

「ごめん!!怪我してないか!?」

私に覆い被さるように倒れていたルーカスが身体を起こした。

取り乱したのが恥ずかしくて起き上がれない。ふたりとも同じ方向を向いてる時にぶつかって倒れたのが不幸中の幸い。この顔を見られなくて済んだ。

「……リリィ?」

そろそろ起きないと心配されてしまう。顔はまだ熱い。

「だ、だいじょうぶ、です…」

顔を伏せたまま上体を起こし、ベッドの上に座りなおした。燭台はテーブルの上に置きっぱなしなのでこっちの方はほとんど見えない。ほっとしたのでベッドの端に腰掛けているルークの隣に座った。

「……!ごめん、重かったよな…」

「私のほうこそすみません、取り乱しちゃって。」

「…あ~、………」

あ、しまった。ヘンな空気になっちゃう。何か言わないと。

「あの…噂には聞いてたんですけど、初めて見たので……」

「ん…?」

「あの魔法道具ってどうやって使うんですか?」

「ええ!?」

話題選び間違えた。ルークが引いてる。

「あっ、いえあの、魔法が発動する条件がどうなってるのか、気になるな、って…あはは…」

「ああ…」

魔法道具に興味ある系女子の設定で行こうと思い尋ねたら、ルークは意外にも真面目に答えてくれた。

あれは男の人の…根本にはめて使うもので、血液が集中したのを検知するとバリアが展開し、行為中に子種が注がれるのを防ぐ魔装具らしい。防御系の魔法がかかっている気配はしてたけど、そんなスゴイ仕組みだったなんて。本当に興味が沸いてきちゃった。

「世の中にはいろんな道具があるんですね。魔法学校では習いませんでした…。」

「…そりゃまあ…新しめの魔法道具だしな…」

また沈黙。

「……。お菓子用のお皿があるのに食べ物は見つかりませんでしたね。ルーカスはお腹すいてないですか?」

「俺は大丈夫だけど……」

考え込むルーカス。

あれ、そういえばルーカスっていつ朝ごはん食べたんだろう。私は食べてないのに。

「リリィは今眠くないか?」

「え?」

「朝、眠そうだったよな」

「ああ……」

忘れようとしていた昨晩のことを掘り起こされて少しイラっとしてしまう。

「今は眠くないですね。昨日は隣の部屋がうるさくて眠れなかったんですけど。」

だんだん目が慣れてきた。ルーカスは頭を抱えているようだ。


「リリィ…すごく言いにくいんだが…このダンジョンは…」

「このダンジョンは…?」

何かわかったのかな。

「このダンジョンはな……」

「このダンジョンは…?」

「○ックスするまで出られないダンジョンだ」

「せっ………!?!?!!?!!?!」

びっくりして仰け反りベッドから転げ落ちそうになったのをルークが支えてくれた。肩に触れた手が熱い。するの!?ここで!?ルークと……!??!?!

「ごめん……いきなり何言ってんだと思うだろうけど、前に聞いた話とそっくりなんだ…この状況が」

ルークが真剣な目をしているのがわかったので、座りなおして耳を傾ける。

「大魔導ユピトって聞いたことないか?」

「ユピトって…教科書に載ってる大魔導士のユピト?」

確か…魔法省に300年勤めてるハイエルフで、世に流通している魔法道具の8割はユピトが発明したとか……

「そのユピトと同じヤツかはわからんが、能力を持て余した大魔導が下々の民の困った様子が見たくてこういうダンジョンを造っているらしい」

それは理解できる。新規出現するダンジョンの多くは高等な魔導士が己の力を示すために造ってるって聞いたことがある。

「人間の三大欲求である食欲・性欲・睡眠欲のうち食欲と睡眠欲が奪われ、連れ込み宿を模した部屋に閉じ込めた2人が行為に及ぶのを愉しんでいるとか…」


「……確かに、このダンジョンにある魔法道具からは極めて高等な魔術を感じます。ユピトが造ったダンジョンで間違いないと思います。」

「こんなクエストを受けてしまってすまない。まさか本当にあるとは思わなくて…」

「眠気や食欲がなくなったのは精神干渉系の魔法攻撃を受けているか、身体から意識だけ抜き取られている状態が考えられます。どちらの場合でも本来の肉体はちゃんと食欲や睡眠欲を感じてますので、長時間それを無視し続けば死に至ります。『謎が解けなければ死ぬ』って、そういう意味だと思います。」

これを性欲と呼ぶのかわからないけど、ルークと密着したときにすごくドキドキしたので、そういう欲望はあるんだろうな…というのは自分でも理解していた。ルークはどうしてそう思ったんだろう。気になるけど聞きづらい。まぁ男の人はそこに裸があれば興奮するって聞くし…外套コートの下は裸!みたいな格好を私がしてるのが原因かな。


「…一応、クエストリタイア出来ないかナビを確認してみたが無反応だった」

「ナビストーンは内部に仕込まれた魔法石の力で動いてますからね。」

「リリィ、俺は……」

「謝らないでください。だいたい、セッ…………するまで出られないなんて、謎解きでもなんでもないですよ。そう呼ばれているだけで、クリアした人がどうやってクリアしたかまではわからないんですよね。何か他に条件があるはずです。それを探しましょう。」

「リリィ……!そうか、そうだよな」

ここが本当にそういうダンジョンで、ルークとせ……クリアしたとしたら、この先どういう顔してパーティにいたらいいの?無理だよ。居たたまれなくなって離脱する未来が見える。魔法省の偉い人がそんなふざけたことしてるわけないし、きっと違う条件があるんだよ。


私は希望的観測を抱いて再調査に挑んだ。

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