世界のどこかで幸せに暮らしている女の子の話

引き合うベルト

暗くて見落としているだけかもしれないけど、このダンジョンには分かれ道がない。

だんだん左に曲がる回数が増えてきて、ダンジョン中心部に近づいている感覚がある。

しばらく歩き続けていたらルーカスが立ち止まった。背伸びして彼の肩越しに前を見てみると、この先に空間が広がっているようだった。

ここがこのダンジョンの最深部なのかな…？

床に生えてる光るキノコがある部分で途切れている。そこに部屋があるようで、扉から明かりが漏れているのが見えた。

扉に近づき、ルークが窓越しに中の様子を確認している。

「ここは安全そうだ。入ってみよう」

明かりのあるところにいくなら見えちゃうかもしれないなと思い、羽織っていただけの外套にきちんと袖を通してから部屋の中に入ってみる。

燭台を載せたテーブルが目についた。他に明かりは見当たらない。

燭台に近づいてよく見てみる。

「これ…魔法の炎です。照明としての魔法だからスライムへの攻撃には使えない」

「ほんとだ、熱くないな」

ルークが燭台を手に取った。

「雑魚は任せろって言ったのにスライム対策してこなくてすまん。ここは魔法が制限されるダンジョンのようだから──」

あ……そうか、ダンジョンの仕掛けなんだ。魔法が使えなくなったって焦っちゃった。そういえばルークについている光の精霊の姿も見えなかった気がする。

「──この部屋にスライムを倒せるアイテムがあるのかもしれない。調べて…」

「あ……！あの、待ってください！」

「ん？」

「とりあえず座りませんか？」

テーブルのそば置いてある2脚のダイニングチェアを手で示す。

ところが、イスを引こうとしたら突然強い力に引き寄せられてルークとぶつかってしまった。

「ごっごめんなさい！」

「いや俺こそ…」

慌てて体を離してイスに座ろうとしたら、また強い力に引っ張られてルークに抱き着いてしまった。

「あわわわわすみません！！引っ張られたみたいな感じがして…」

「リリィもか？！俺もなんか変なんだ」

「と、とりあえず、ゆっくり離れましょう…」

一歩、二歩と後ずさりしていくと、おなかのあたりに魔力を感じた。

「ベルトです！このベルトが引き合ってるみたいです！」

2人が離れようとすると強い引力が発生する魔法がかかってるみたいだとルークに説明し、イスを横に並べて置いてふたりで腰掛ける。

「そういうことか…通路にいたときはそばにいたから気が付かなかったな」

「それで、さっき伝えたかったのは、このダンジョンの謎はこの部屋にあるんじゃないかってことなんです。」

ルークが手に持っていた燭台をテーブルに戻し、私の話に耳を傾ける。

「このダンジョンって、アイテム持ち込み禁止なだけで、装備品は指定なしですよね。スライム撃破が条件だったら、装備によって難易度が変わっちゃいますよ。」

「確かに」

「ここが恐らく最深部のようですし、この部屋自体に解くべき謎があるんじゃないかと思います。」

ルークは真剣に聞いているというのに、私は彼と至近距離で会話するのが恥ずかしくなってしまい、テーブルの燭台の方に視線を移した。そういえばこの燭台の炎が魔法で良かった。本物だったらさっきぶつかったとき服が燃えてたかも。

あ…もしかして…

「魔法で周囲を照らせないように制限しているのかもしれません。」

「この燭台の灯りの範囲で部屋を探索しろってことか」

部屋の探索を始める前に、ベルトが外せないか試してみたけど案の定ダメだった。

なので、どのくらいならベルトの魔法が発動しないのかを試してみた。私の足で3歩ぶん離れたくらいで引力が発生するみたいだったけど、手など身体の一部や、装備品含めて身に着けているもがくっついていれば、4歩以上の距離があっても魔法が発動しない。ルークに私のロッドの端を持ってもらって判明した。

「そうか、それで回廊を進んでた時は気づかなかったんだな。リリィずっと俺の外套掴んでただろ」

「えっ……そんなことしてました？」

「なんだ無意識か？ずっと黙ってたし、暗くて怖いのかと思ってそっとしておいたんだが」

「あっ……あ～～、それは、確かに怖かったんですけど…魔法が使えなくなった感覚があって、それが怖くて…」

私もルークも光の精霊の加護があるから本来はもっと明るいはずだと説明する。

「え！？そういや他のダンジョンより暗いような気はしてたけど…俺に精霊がついてるとは知らなかったなぁ。魔導士ってそういうのもわかるのか」

普通は契約してる精霊しか見えないらしいけど…別に言わなくてもいいよね。

「しかし今回のことでリリィの魔法に頼りきりだったことを反省したよ。…帰ったら魔法剣の修行でもするかな」

やだな。勇者様は魔法適性がないと思って魔導士になったのに。魔法が使えない自分が役立たずで足手まといだと気付いたのがすごく怖かった。ルークが魔法攻撃も出来るようになったら私の存在意義が薄くなる。

「一応魔法剣士の免許も持ってるけど魔力（MP）も賢さ（INT）も低いから魔法剣だとあんまり火力出ないんだよなぁ。暇なときでいいからコツとか教えてよ」

「……魔法剣は、私には扱えないです……」

「ごめん、剣じゃなくて魔法のコツ。MPが少ない時でも最大限の力を発揮してくれるだろ、いつも」

魔法剣士に転向するつもりなら嫌だけど……ルーカスが私の協力を求めているなら、それに応えたい気持ちもある。

はあ。ここから出られたら考えよう。

「無事に帰れたら魔法剣の修行に付き合います。まずはここから出ましょう！」