第三章 魔法剣士への道
はじめてのお酒 side Lil
ルーカスが魔法を使えるようになるのは嫌だったけど、授業料として毎日一緒にご飯を食べられるのがうれしくてついOKしてしまった。
"いつも一緒に食べてないか?"
違うよシルフ。クエスト前後の食事はギルドの活動資金から出てるけど、今回はルークの個人的なお金でごちそうしてもらえるんだよ。
ローブを着替えた方がいいのか迷ったけど、食事の後は魔法の訓練があるし、ローブのままでいいのかな…
念のため、手持ちの中で一番
「なんかいつもと違う?」
「あっはい。魔法の勉強なので適したものを…」
嘘だけど。そういうことにしておこ。
◇
ルークは料理と一緒にお酒も頼んでいた。そういえばふたりで飲みに行こうって言う約束は有効なのかな……
「そういや飲みに行こうって約束してたな。リリィも飲むか?」
「!」
じっと見ていたら察してくれたのがうれしい。
どこかおしゃれな酒場に連れてってもらえるのを想像してたけど、ごはんと一緒にお酒を飲んだ方が酔いにくそうだからいいかも。
「どれがおいしいとかわからなくて…それっておいしいですか?」
「んー…これは苦いやつだから…リリィは果実酒のほうがいいんじゃないか」
「……同じので」
追加注文したお酒が運ばれてきた。
一口飲んでみたけど、ルークの言う通り苦くて、あんまりおいしくなかった。初めて飲んだお酒がこんなにマズイなんて…
「だから果実酒にしろって言ったのに。そっちは俺が貰うからまた注文しなよ」
「…すみません。」
「……そういや、リリィがいつも帝都で会ってる人とは飲んだことないのか?」
え。お父さんの話ってしたことあったかな?
いやでも、学生時代は私が管理局長の娘だってみんな知ってた。あえて言ってこないだけでギルドのメンバーも知ってるのかもしれない。
お父さんはお酒が好きで…というか私のお母さんがお酒好きだったらしくて、お酒が飲める年齢になったらお母さんがよく通っていたお店に連れて行きたいと言われていたことを、今になって思い出した。14の時から冒険者稼業をやっているので機会がなかったな…。私が帰る時には家にいてくれるけど、お父さんも本当は忙しいみたいだし。
「……お酒が飲める年齢になったら酌み交わしたいとは言ってましたね~……。」
お父さん、家族より好きな人の方を優先してごめんなさい。今度家に帰るときはお父さんの好きな銘柄のワインをお土産にします。
「その人はリリィの大切な人…なんだよな?」
「え?はあ、まあ……」
ううう。お父さんごめんなさい。私がちゃんと人間の生活を送れるようにいろいろ力を尽くしてくれたお父さんより目の前にいる人の方が大切かもしれないです。
「そうか……。リリィの大切な人なら俺も挨拶しておきたいな」
「えっ!?」
私の親に挨拶!?それって……結婚を前提に交際している男女がする行動では!?!?
もしかしてルークも私のことが……?
「迷惑ならいいんだけど。一応、上司みたいな存在として、挨拶くらいしておいた方が彼も安心できるかと…」
あー、そっか、お父さんが局長だから……
なんだ。
「迷惑なんかじゃないですよ。ルーカスのことを褒めていたので、きっと歓迎すると思います。」
「えっ俺のこと知ってんの!?」
「あっ!!えーと、いつもルーカスの話してますので…も、もちろん尊敬する冒険者の先輩としてですよ。あはは…」
今みたいに自分のギルドがある時じゃなくて一構成員だった時からお父さんはルーカスのことを知っていたけど、そこに触れたら私がルーカスに憧れて冒険者になったこととか、このギルドに入ろうと画策したこととか、話したらまずいことを明かさないといけない…本当に会うことになったらお父さんに口止めしておかないと。
それにしても、ぶどう酒一杯程度じゃ全然酔わないみたいだな。体調に変化がない。自分がどのくらいまでならお酒を飲んでも平気なのか知りたかったけど、この後のことを考えたら一杯でやめておいたほうがいいかも。
ふと前を見ると、テーブルに置かれたルークのナビストーンがかすかに震えている。
* ウルランタ さんがパーティから離脱しました
「あ、パーティ解散するの忘れてたな。ウルランタはまたいい男を見つけたんだろうか」
「あの年で故郷の未来を背負ってるなんて立派だと思います。」
私には将来の展望なんて無い。既に夢を叶えてしまって、このあとどうするかなんて何も考えていない。ただ、できるだけ長くルークのそばにいたいと思っているだけ。
「リリィもまだ若いけど、結婚したいなって思うことある…か?」
「それは…私だって好きな人と出来るならしたいですけど……」
ちらりとルークを見た。
「そうか。結婚式の主賓挨拶は任せてくれ」
あ。
振られたんだ。これは。
「結婚なんて……しません。一生しないと思います」
トゲのある言い方をしてしまってルーカスを困らせてしまった。ルーカスが謝ってきたけど余計につらくなるからやめてほしい。
店に入るまでは最高潮だった気持ちが沈んでいく。魔法剣の練習に付き合う約束なんてするんじゃなかった。
「ごちそうさまでした。訓練所に移動しましょう。」
ルーカスとの楽しい思い出を胸に浮かべながら、精いっぱいの笑顔を作って言った。報われなくても、そばに居られるだけで幸せだって思わないと。
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