世界のどこかで幸せに暮らしている女の子の話

@yamada_nodoame

第一章 2人組専用ダンジョン side:Luk

俺は悩んでいた。


俺のギルドに所属する女の子に好意を持たれているかもしれない。

悩みの種は俺の肩にもたれかかってすやすや寝ている。俺たちは乗合馬車で拠点へ帰る途中なのだが、向かいに座っていた同乗者が下車した後も彼女は俺の隣に座り続け、今では眠りこけている。


あんなことがあった後に俺の横で眠れるなんて、やはり俺のことが好きなのか?それとも単に寝不足なだけか?

今まで同業者を恋愛対象として見ないようにしてきたが、扱いを間違えると彼女がギルドから抜けてしまうかもしれない。


どうすべきか。



発端は1日前に遡る。

俺たちはドラゴン討伐の依頼を受け、辺境の町・グランスにやってきていた。

普段の活動拠点からこの町へは移動に3日ほどかかるため、ギルドに在籍しているメンバーのほとんどが留守番を希望した。そこで遠征先のグランス近郊でクエスト参加希望者を募集し、彼らと討伐を終え戻ってくると、町ではドラゴン撃破を祝う宴が催されていた。


「本当にありがとうございました。ルーカス様たちは我が町の恩人です」

人の好さそうな老紳士がグラスに酒を注ぐ。依頼主であるグランス町長だ。俺はここの郷土料理に舌鼓を打っていた。


「被害が出る前に倒せてよかったですよ。また何かあったら呼んでください」

町長が注いでくれた酒のグラスを見せるように持ち上げ、それを飲み干す。うまい。

「はいッ!依頼でなくてもまたこの町にいらしてくださいね。いつでも歓迎しますので。それでは、ごゆるりとお食事を楽しんでくださいませ」

笑顔をこちらに向けたまま、いそいそと町長が退散していった。


俺たちが招待されたのはこの町一番の料理店で、店内では住民たちが音楽を奏でたり、それに合わせて踊ったりしている。にぎやかな雰囲気だ。冒険者としてのランクが上がるにつれて淡々と依頼をこなす日々を過ごしていたが、こうやって依頼の先にあるものを感じる日もいい。

今日はもう拠点方面への馬車の運行が終わってしまったので、一泊して明日発つ予定だ。おかげで時間に余裕があり、こうして宴にも参加できた。


向かいの席に座っている魔導士のリリィは黙々と食べている。白百合のように凛とした美しさを宿す少女だが、こういう姿にはキヌゲマウスみたいな愛らしさがある。

リリィは彼女が初心者の頃に少し面倒を見た縁で俺のギルドにずっと在籍していて、遠征の際は毎回ついてきてくれる頼もしい相棒だ。


「いやぁほんっとかっこよかったっす。あのルーカスさんの剣技が間近で見られてほんとカンドーっす。リリィさんの魔法もほんと助けられましたし、おふたりの戦い方はほんと勉強になる事が多くて…」

左隣には臨時で加入してもらった盾役タンクの男。こんな調子で俺たちの事をしきりに褒めている。名前はジュスタンだったか…ひょろっとした体躯だが怪力の持ち主で、身体の4倍はありそうなデカい盾を器用に操っていた。


「ねぇボウヤ。アタシは?アタシも結構がんばってたじゃない?」

右隣に座っているエルフのサレサンバ…ナントカさんも今回の臨時メンバー。回復役ヒーラーとして参加してくれた。グラマラスな迫力のある美女で、エルフのイメージをぶち壊す存在だ。見た目だけなら銀髪で華奢なリリィの方がエルフっぽい。


「いや俺今回あんまり攻撃喰らわなかったみたいで…」

「アタシが秒で回復してたから気付かなかったんでしょ!!」

「そうだったんですか!?」

タンクがヒーラーの凄さを理解したようで、とたんに褒め始める。素直な男だなぁ…




用意された食事をたいらげてしまっても、タンクの褒めちぎりはまだ続いていた。

「ルーカスさんのギルドって番付に入ってますよね。俺とそんなにトシ違わないのにほんとソンケーっす…」

サレサン…エルフのお姉さんまで乗ってきた。

「ねーっ。それにいい男よね。アタシの好み♡」

何のアピールだ2人とも。募集時に臨時メンバーだと伝えてあるんだが…。申し訳ないが、うちのギルドは定員まで埋まっている。そろそろ切り上げた方が良さそうだ。


「2人とも今日はありがとう。報酬は管理局に送っておいたから、各自受け取ってくれ。また機会があったらよろしく頼む」

「ヤダもう締めに入る感じィ!?」

エルフがテーブルに手を載せて勢いよく立ち上がった。

「みんな今日は泊まりなのよね?この近くに林檎酒のおいしいお店があるんだけど、どう?」

「俺たちがハラレロドラゴンから守った果樹園のやつっすね!?行きたいっす!」

「そうなのそうなの♡ぜひ飲んでってほしいわぁ。」

パーティメンバー全員が酒を飲める年齢というのは珍しいので、もう少し彼らと付き合ってもいいかもしれない。宿に帰っても寝るだけだし。

「タダ飯のうえ長居するのも悪いし、店を変えようか」


俺が荷物をまとめてイスから立ち上がると、ずっと黙っていたリリィが口を開いた。

「あの…私はもう寝ますね。みなさんは楽しんできてください。」

「あらやだ、未成年だっけ!?」

「いえ、18になりましたが…ちょっと疲れてしまって。せっかく誘ってくださったのにごめんなさい、また機会がありましたら。」

リリィはもう限界のようだ。

ろくに喋らなかった昔に比べたらだいぶ進歩したほうだが、ずっと食べることに集中していたのも初対面の人間と話すのが苦手だからだ。


「えぇリリィさん来ないんすか!?一杯だけでもダメっすか??」

「あっ……えっと……」

タンクが帰ろうとするリリィを引き留めた。リリィは助けてほしそうにこちらを見ている。

このパーティは今日で解散だし、クエストが終わった後なら無理して付き合う必要はないな。

「リリィ、宿に行くなら俺の荷物預かっててくれ」

俺はタンクとリリィの間に割って入るように手荷物を渡し、タンクの肩を叩いて料理店から連れ出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る