誘惑
「へぇ、良い雰囲気の店だな」
エルフのお姉さんの案内で、俺たちは林檎酒がうまいという酒場にやって来た。
俺が店の扉に手をかけると……「あーっ!!」後ろでタンクが大きな声を上げた。
「アッ、俺、次の仕事の都合で、明日早いの思い出しました。もう寝ないと!」
「あらそぉ?」
なんだなんだ。わざとらしいぞ。リリィが来ないなら次の店まで付き合う必要はないってことか?
「ルーカスさんっ!!」タンクが俺の両手を取り拝むように掴む。
「ぜひまた呼んでくださいね!俺もっと修行しますんで!!それじゃ!」
* ジェスタン さんがパーティから離脱しました
走り去るタンク。
なんだあいつ、もしかしてリリィの引き抜き目的か?リリィならもう宿についてるだろうから、今からちょっかい出すのは無理だと思うが……
あいつは雑魚敵を引き付けるのが巧くてかなり助かったが、リリィ狙いならもう呼ばん。
「……。二人っきりになっちゃったけど、行くわよね?」
改めて、俺は店の扉に手をかけた。
◇
この店で出す酒はさっきまでいた料理店で出していたのとはまた違った味わいがあり、さわやかで飲みやすい。この酒ならリリィも飲めそうだし、来ればよかったのに。
横を見ると、エルフのお姉さんが蠱惑的な笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「ウフッ。あなたとは二人っきりで飲みたかったの♡」
「サレサンバレータさん……」
「サルサでいいわ。ニンゲンからしたら長ったらしくてよくわからない名よね。」
名前はあれで合ってたのか?
サルサが椅子を俺の方に寄せ、体を密着させてくる。
「夜の剣術も相当な腕前だって…ホントかしら?」
サルサの手が俺の腿を這う。どこでそんな噂になってるんだ?!
股間まで伸びてきそうな気配を感じ、俺はサルサの手をとってテーブルに置いた。
「試してみます?」
「あっ、いいのぉ?ルーカスくん。リリィちゃんとデキてるって思ってたわ」
「はぁ?!」
俺は同業者とは深い関係にならないように心掛けている。仕事がやりにくくなるからだ。サルサのことも適当にあしらうつもりだったが、リリィの名前を出されたのが意外で素になってしまった。
「いや、彼女はうちのギルドのサブマスターで、仕事上のパートナーではありますけど…そういう関係では…」
「え~そうなの?ギルマスとサブマスが恋人同士ってよくあるパターンじゃない。」
「いや……リリィとは……」
リリィはもともとかわいらしい顔立ちをしていたが、最近は幼さが薄れてきて、息をのむほど美しく感じる時もある。それに、俺とふたりの時は普段より喋ってくれるっていうのが、俺にだけ心を開いてくれてるみたいでうれしいんだよな。
俺が自分のギルドを立ち上げ、メンバー募集を始めて最初にやってきたのがリリィだった。その頃のリリィは魔法学校を卒業したばかりで実戦経験がなく、おまけに無口なのでコミュニケーションが取れず苦戦の連続だった。
メンバー募集開始から3日くらい音沙汰がないところにやってきた待望の応募者だったというのがなければとっくに放り出してたと思うが、あれから4年経った今では優秀な魔導士に成長している。口数は少ないがメンバーからの信頼も厚く、あの時見捨てなくて良かったと心の底から思っている。
リリィにとっての俺は恩師のような存在だろうし、変に手を出して嫌われたくない。
「つまり、リリィちゃんが大事だから手をつけてないってことなのね」
「違いますよ!仕事仲間だからですって。サルサさんのことだって仲間だと思っているからそういう関係には……」
あれ、俺いま声に出してたか?
リリィは社交性に難ありでギルドメンバー向きの性格ではない。冒険者としてのノウハウは十分習得しているし、そろそろギルドを抜けてソロで活動していく頃合いかもしれない。
そうか、リリィがいなくなる日がいつか来るんだよな。そうなったら俺は……
「ウフフ。だぁいじょうぶ。アタシが慰めてあげるわ……」
◇
窓から差し込む日の光で目が覚めた。朝だ。
頭が痛い…
あれ?いつのまに宿屋に戻ってたんだろう。
体を起こし、ふと横を見ると……一糸まとわぬエルフの女が寝ていた。
「うおッ!?」
驚いてのけぞってしまい
「んん…あっ、おはよぉ~」
「え?え?」
俺も服を着ていなかった。床に落ちてた衣類を掴んで慌てて前を隠す。
「すみません、俺、何も覚えてなくて……」
「うふふっ。あのお酒、飲みやすいけど度数高いのよ。気にしないで。」
マジか。
というかすごいおっぱいだ。隠そうともしないので目線がそっちに行ってしまう。
ナビストーンでパーティ情報を確認する。この女──サレサンバレータはまだ離脱していない。さっさと解散しておけばよかった…
俺に取り入ってギルドに入れてもらおうと企んでるのか?
メンバーに空きがないから誰かを脱退させなきゃならないし、ギルドの利益より自分の女を優先するなんてリーダー失格だろう。
しかし、関係を持ったことを盾に抗議されたら反論できないぞ…こういうことになるから同業者には手を出さない主義なのに、どうしてこんなことになってしまったんだ?
サルサは何食わぬ顔で着替えている。
うおぉ…すっげぇ……
仕事仲間に手を出す失態を演じたことより、このおっぱいの記憶がないことを俺は悔いた。覚えてないってことは何もしてない可能性もあるよな。酔って粗相して着替えただけっていうパターンかもしれない。
ま、この女をどうするかは後で考えよう。
俺も帰り支度を始めた。
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