剣士ルーカスのギルド始動

初めての討伐

「魔導士か。俺は魔法苦手だから助かるよ。キミみたいな子が最初に来てくれて本当に良かったなぁ」

ゆ…ルーカスがナビストーンに表示される私のステータスを確認している。


「えっ、キミ、経歴凄くない!?帝都の魔法学校を飛び級で卒業、しかも首席って。ほんとに俺のところでいいの?」

ルーカスは私のことを覚えていないようだ。彼にとっては初対面なのに「あなたの力になりたくて冒険者になりました」なんて言ったら引かれてしまうかもしれない。

なんて言えばいいのかわからず、とりあえず全力で頷いておいた。

学校では結局最後まで孤立していたので、同年代の人との距離の詰め方が未だにわからない…


「住所も帝都になってるけど、ここからすげぇ遠いよね。もしかして間違えて申請した…?」

「いっ、いえ、あの、昔。この近くに住んでて…」

嘘は言っていないけれど、遠くから申請に来るのって不自然だったのかな。

「あーなるほどね。これ魔法学校の寮の住所かな。俺もこの近くの村出身でさぁ、こっちで冒険者免許取ったから更新のたびに帰ってこないといけないから大変だよね」

「は、はいっ、里帰り、いつもたいへん、でした…」

「だよなー。王国で最近開発されたっていう転移魔法の装置がこの国でも普及したら楽になりそうなんだけど」

「転移魔法装置、聞いたことはあります。見てみたいです。」

うれしい。ちゃんと会話ができている。魔法学校卒業と同時に冒険者免許も交付されてるから更新するなら帝都だけど。それは黙っておこっと。


ルーカスが私の顔を見て、ニッと歯を見せて笑う。

「よし。活動資金から宿代を出しておくから、今日はもう休んでくれ」

「はいっ。あの。ありがとうございます。」

「ああ。こちらこそよろしく。明日から頑張ろうな!」


ルーカスが私のことを覚えていなかったのは残念だけど、彼にとっては人助けなんて日常茶飯事だったのかもしれない。そりゃ、覚えてなくて当然だよ。

そんなことより、明日から一緒に冒険できることが嬉しくて、幸せな気持ちで眠りについた。



次の日、宿の食堂で朝食をとっていると、ルーカスがやってきて向かいの席に座った。

「オレンジデカウサギって倒せるかな」

「はい!」

オレンジデカウサギなら学校の模擬戦で何度か倒したことがある。元気よく返事した。

「おっ!良かった、今ちょうどオレンジデカウサギの討伐依頼があってさ。参加者受付の締め切り間近だったから、俺とキミでパーティ作って申し込んじゃった」

ルーカスも朝食を注文して食べ始める。あこがれの人と一緒に朝ご飯を食べるなんて…夢みたい。でもこれからはこれが日常になるんだ。いちいち感動してる場合じゃないよね。


「依頼内容は、この近くにあるフロスト山を根城にしているオレンジデカウサギ5体の討伐。このウサギの脚が今装備してる靴の強化に使えるんだけど、デカウサギは物防DEFが高くて俺一人じゃ厳しいから、きみが加入してくれて助かるよ。食ったらさっそく出発だ」



フロスト山を目指して出発すると、シルフが風の祝福を分けてくれて、私の足が軽くなる。でも、このまま歩いたらルーカスを大きく引き離してしまう。


シルフ、ルーカスにも祝福を分けてあげて。

"やだよ。オレが祝福するのはリルだけだ。置いていけばいいよあんなノロマ"

そんなこと言わないで。私が何のために今まで努力してきたか知ってるでしょ。

"……オレの力を分けてやるから、リルがあいつに魔法をかけろ。おおまけにまけてリルから頂く魔力は2目盛り分でいい"


MP2を消費し、ルーカスに移動速度UPの補助魔法をかけると、「やはり魔導士は良い」と喜んでくれた。


ありがとうシルフ。こういうことだったんだね

"違うよ。祝福は一人にしかできないんだってば"


シルフのおかげで、オレンジデカウサギ目撃情報のあった地点まで瞬く間に辿り着いた。ルーカスが剣を抜き、あたりを警戒する。剣にはあの時見た光の精霊がついていた。


"フーン。あいつ、武器じゃなくてあのニンゲン自身に加護を与えてるヤツだったんだ。やるじゃんあのニンゲン。リルが見込んだだけのことはある"


「後ろだ!」

ふいにルーカスが叫ぶ。シルフも後ろにいる何か気付いて口をぽかんと開けている。

振り向くと、ユルバの木よりも大きなウサギがゆっくりとこちらに近づいていた。



これがオレンジデカウサギ…?

学校にあった疑似デカウサギとは全然違う。頭が回らず、恐怖のあまり魔法杖ロッドを取り落としてしまった。


四方からぞくぞくとオレンジデカウサギが現れた。そのうちの1体をルーカスが斬りつける。斬撃があまり効いていないのは音でわかる。早く杖を拾わなければ。


ええと…炎の攻撃魔法は……

"リリィ、ちがうよ。ちがうよ。オレンジデカウサギは水が苦手。水が苦手だよ。学校で習った、学校で習ったでしょ"

火の精霊パイラの声がする。思考がまとまらない。とにかく杖を拾おうと伸ばした私の手をデカウサギが踏んだ。激痛で声を上げてしまう。

「どうした!?」

ルーカスの声がしたけど姿は見えない。オレンジデカウサギたちが私を取り囲んでいる。もうダメだ。


と思ったその時、ルーカスがウサギの脚の隙間から滑り込んできて、ウサギの一斉攻撃を私の代わりに受けた。



ルーカスも私も動けなくなっているのを見てオレンジデカウサギたちは満足したみたいで、山の木々の中へと消えていった。

私は泣き喚きながらクエストリタイアの申請を送った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る