本音

ルーカスが諦めモードに入ってしまった。

ここから出られる保証なんてないのに。死んじゃうかもしれないのに。

一瞬だけ、ふたりで死ねるならいいかもなんて思っちゃったけど、私のせいでルークが死ぬなんてだめ。どうしたらやる気を出してもらえる?

私が理性を吹き飛ばすようなおいろけ美女だったら良かったのになぁ。

…ダメ元で色仕掛けに出てみる…?


ルークはシーツの上に寝そべっている。触れ合うにはシーツの間に入ってもらわないといけない。ぐいぐいとシーツを引っ張ってみた。

「ごめん、寒い?」

「!!」

ルークを起こしてしまった。本気で寝てはいないだろうけど。

「あっ、いやあの…ルーカスが寒いんじゃないかと思って…シーツ、被りません…?」

「いや…?平気だけど……」

「そうですか……」

「………」


私がしょんぼりしているのが伝わってしまったのか、ルーカスがシーツをめくって中に入ってきた。

「そういやちょっと寒いかも」

このひとは私の気持ち優先なんだ。さっきは私が嫌がってるからやめたんだ。涙なんて流さなければよかった。

でも、私にとって泣くほどの葛藤だったのは紛れもない事実。自分の気持ちを押し込めて、こじらせてしまったから、あんなわけのわからない感情になってしまったんだ。


私はあなたが好き。生きていてほしい。

このことを伝えるしかない。



……と決意したものの、どうしても言葉が出てこなかった。

人間には頭の中で考えてることが伝わらなくてよかったと常々思っていたけど、今はうまく言葉にできないこの気持ちをそのまま伝えたいのに伝えられなくてもどかしい。


私が一歩も踏み出せずにいると、ルークが沈黙を破った。

「……リリィ。起きてるよな」

「起きてますよ…眠くならないので…」

「朝…リリィを怒らせてしまったから…機嫌を直してほしくて連れてきたんだけど…こんなダンジョンで本当にすまない。何度謝ったって許せないと思うけど…」

「そんな…!違います。最終的に入るのを決めたのは私です。」

「優しいな。リリィが嫌じゃなかったら、これからも俺のギルドにいてほしい」

「どこにも行きませんよ……」

「そうか……」

ルークが上体を起こした気配を感じたので顔をそちらに向けたけど、彼はこちらを見ずに話を続けた。

「サブマスにしてリリィをこのギルドに縛り付けてるのがずっと申し訳なかったんだけど、すごく助かってるんだ」

ルークがこちらを向いた。急に目があって恥ずかしい。

ルークは私から視線をそらさずに話し続ける。

「これからもずっと一緒に冒険したい、大事な仲間なんだ。だから、リリィを傷つけるのがどうしてもできなくて……」

ルークは体勢を変え、覗きこむように私の顔を見ている。

「この先、いつまで経ってもここから出られないようなら、その時はごめん。優しくするから……俺に身体を許してくれるか?」


何か。何か言わないと。


「ル……、が、いやだったわけじゃ…なくて…」

「うん……」

語調が優しい。私が話すのを待っててくれる。

「わたし…は、……ルークとなら……」

顔が熱い。ルークの目を見て話すのに耐えられない。手で顔を覆った。

「リリィ……」

「ルークとなら、い、いやじゃ…」

嫌じゃないじゃなくて、って言わないと。

ルークが私の顔を覆う手を取ってどかし、じっと顔を見つめてくる。

掴んでいた私の手に自分の手を重ね、指を絡めてきた。

「ルーク……?」

ルークは何も言わない。私は重ねた手を握り返した。





\てーれってれー♪/


謎の効果音と共に部屋の照明が灯ったので慌ててルークから離れた。ベルトが外れている。


* オメデトウゴザイマス! だんじょんノ くりあ条件ヲ達成シマシタ

* CLEAR【体が繋がった状態で3分以内にキス】


繋がったって、でもいいってこと!?やだ、完全に思考がそっち方面に行っちゃってた…はずかしすぎる……。改めて思い出してみると、ルークと手を繋いだ時に一番ベルトの光が大きくなってたような……想像上のユピトが嘲笑う姿が浮かんだ。


「あ…えっと、私、クリア条件を誤解してたみたいで…ははは…クリアできてよかったですね…あはは…」

ルークは何も言わない。

明るい場所でルークの顔を見るのが恥ずかしかったので、そそくさと2人分のベルトを回収して木箱にはめこんだ。

すると視界がぐにゃりと曲がり、警告文が浮かんでいたあの壁の前に転移した。服も元通りになっている。


"嫌な予感がするからやめとけよ"

シルフがいる。ずっとここにいた?

"何を言ってるんだ?"

ダンジョンはもうクリアして戻ってきたの。

"え?さっき入ってきたばかりだろ?"


そっか…時間軸ごと切り取って意識だけ飛ばすタイプの亜空間だったのかなぁ。大魔導ユピト、恐るべき魔法使いだ……

"いつどうやってクリアしたんだ?おいリル!思考を閉ざすな!教えろよー!"


昔はなんでも筒抜けだったけど、今では親友シルフにも内緒にしたいことが増えたので、意識して伝えようとしなければ私の"声"は伝わらない。


まだ心臓がどきどきしていたけど、平静を取り繕ってルーカスに声をかけた。

「ルーカス。クリア報告に行きましょう。」

「ああ…ちょっと先に行っててくれ……」

ルーカスも動揺してるんだ。あれ以上のことをしなくてよかったけど、このあと関係がぎくしゃくしてしまったらやだな。


思い出して赤面したのがばれないように急いでダンジョンを出た。

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