魔法学校
森を出てから数か月経ち、私がこの国の言葉を話せるようになったころ、冒険者名鑑の勇者様のステータスから見習いという文字が消えていた。
職業は『剣士』と書いてある。
剣士、か……。勇者様が使っていた木剣には光の精霊がついてたけど、
前に故郷の森に帰ったとき、レンチェ村に立ち寄りたいとお願いしたんだけど、勇者様には会えなかった。冒険者だから冒険に出かけていたんだと思う。
私も冒険者に…魔導士になったら、勇者様に恩が返せるかもしれない。
魔法学校に通いたいと告げると、お父さんは泣いて喜んだ。
ところが、魔法学校に入ってからは苦労の連続だった。
「アンタの実力で無詠唱なんておかしい。ズルしてんじゃないのォ?」
「管理局長の娘でしょコイツ。パパのコネで学校の設備イジってるんじゃない?ギャハハハ」
私は精霊と直接対話できるので詠唱を口に出す必要がなかったのだけれど、傍からだとそれが無詠唱に見えてしまうらしい。無詠唱で魔法を繰り出せるのは高等な魔導士か、もともと体内に魔力を宿す種族だけだそうだ。人間は精霊と契約しなければ魔法は使えず、契約して間もない初心者が無詠唱なのはありえないことらしい。
みんなに説明したかったけどうまく話せなかった。私が頭の中で考えてる言語は精霊が使う言葉やおばあちゃんが話す言葉が混じっていて、ここの人に伝わる言葉だとどういう表現になるのかすぐに出てこないことが多かった。精霊と話せるのは努力で身に着けたものじゃないし、ズルをしているという感覚もある。私はますます孤立していった。
「学校でイヤな事があったら何でも言うんだよ。」
「ありがとうお父さん。毎日楽しいよ。」
学校で孤立しているなんて伝えたら、本当にコネで何かしそうなのでお父さんには言えなかった。それに心配かけたくない。
だから、学校で落ち込むことがあった時は、冒険者名鑑で勇者様のページを開く。
新しい戦績が追加されていくのを見て勇気をもらっていた。私も頑張らないと。
魔法学校を卒業して、ついに私も冒険者免許を取得した。
その頃の勇者様は、私でも名前を知っている有名なギルドに加入していて、難しいクエストをいくつも達成していた。私もここに加わりたい。
「お父さん。私、冒険者になる。旅に出たいの。」
「なんだって?!」
その日、お父さんと私は初めて親子喧嘩した。
お父さんは、私がお母さんのように研究者を目指していると思い学校に通わせてくれたらしい。冒険者の管理局を取りまとめてるくせに、冒険者なんて危ないからダメだなどとおかしなことを言ってくる。
「お願い、お父さん。ずっと夢だったの。小さいころ、ゆ…冒険者に助けてもらって、その人と一緒に戦うのが私の夢なの。」
攫われそうになった時に助けてくれた男の子がいたこと。
その人は冒険者として活躍していて、それが私の励みになっていたこと。
その人と同じギルドに入って一緒に冒険するのが私の目標だと、お父さんを説得した。
勇者様の冒険者情報のページを開いてお父さんに見せると、「ああ…」と得心がいったような顔をする。
「戦士ロルフのギルドに所属している剣士か。彼は最近力を伸ばしている有望株だ。それにロルフならリリィに無理はさせないだろうな……」
管理局の一番えらい人であるお父さんが勇者様のことを知っていたのが嬉しかった。やっぱり勇者様はすごい人なんだ。
「お父さん、それじゃ……」
「だが、そんな危ない目に遭っていたのなら尚のこと許可できない。その人攫いの特徴を覚えているだけ教えなさい。処罰しなくては……」
「お父さん……」
◇
それから何日もずっと家で過ごした。もう学校も卒業しちゃったし、お父さんもほとんど家にいないから暇を持て余していた。
攫われそうになったなんて言うじゃなかったな……。
ある晩、お父さんと久しぶりに夕食を共にした。
ご飯が運ばれてくる前にお父さんが紙の束を私に手渡してきた。
「お前を襲った人攫いだが……一昨年、逮捕されていることがわかった。今は牢獄にいるようだ。」
紙に目を落とす。逮捕協力者として勇者様の名前が書いてあった。
「これ……」
「ああ。彼の村を狙った犯行だったから名前があるのもおかしくないが、並の少年に出来ることではない。」
「そうでしょ。私もこれくらい強くなって、お父さんのことだって守ってあげるよ。」
お父さんは目を伏せて、ははははと笑った。
「いいよ。行ってこい。ロルフの所は初心者も歓迎しているから入れてもらえろうだろう。」
「ありがとうお父さん……!私、頑張るからね!!」
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