再挑戦

低級魔物の討伐クエストは討伐指定数が多いので、ルーカスと手分けして半数ずつ倒すことになっている。たとえば、20体討伐だったら10体ずつ。


私が11体倒せばルーカスが1体ラクできるなと思って11体討伐し、ナビストーンで連絡を入れると、「半数以上倒すなんてえらいぞ!」と褒めたあとで「俺は12体倒したけどな」などと得意げに言ってくる。


私が12体倒すと、ルーカスは13体。悔しい気持ちと驚いた気持ちが混じった顔をしている私を見て、ルーカスが子供のように笑う。

楽しいな。勇者様ってこんな人だったんだね。冒険者名鑑を眺めてるだけじゃわからなかった。


ある日、私はクエストの報告を任されることになり、一人で冒険者管理局を訪れた。いつも横で見ていたから楽勝だ。受付で報告を済ませると、横にある掲示板が目に入った。

気になることがあったので掲示板の内容をチェックしてみる。


あった。


* オレンジデカウサギ討伐 難易度★4

* 指定討伐数:5体

* 受付期限:残り1時間、討伐期限:残り28時間


オレンジデカウサギは満月の夜が近くなると行動が活発になり、目撃情報が上がってくる。満月の夜は凶暴度が増して非常に危険なので、満月の日の日没までに倒さなければならない。



管理局での用を済ませたあと、宿で待っているルーカスの部屋をたずねた。


ノックをすると、中から「入っていいぞー」と声がする。

ドアを開けたらルーカスが狭い部屋の中で鍛錬をしていた。

私が部屋の中に入るとルーカスは起き上がり、書き物机の椅子を引いて向きを変え、座るように促してくる。部屋には他に椅子がないので、ルーカスは寝台に腰掛けた。


「報告してきました。それで…」

「ああ。ナビに通知が来たから知ってるよ。受けたんだな」

「……はい。」


簡単に作戦会議をし、この後の時間は自由にしていいとルーカスが告げた。

「出発は明日の朝9時。再挑戦リトライ、成功させるぞ」



自由にしていいと言われても特にやることがない。私はルーカスを見習って鍛錬に励むことにした。魔法の場合は宿では狭すぎるので外に出て、じゅうぶんな広さのある場所を探してみる。


町の外に広がる草原に、木が1本ぽつんと立っているのを見つけて、そこまで歩いて行った。


森では見たことがない種類の木だ。オレンジデカウサギはこのくらいの大きさかな。

"あれはもっともっとデカかったよ!"

"シルフは怯えて見てなかったのね。この木より少し小さいくらいだったと思うわ"

風の精霊シルフ水の精霊ラランクリアが口げんかを始めてしまった。


"リリィ、びびりは放っておいて練習しましょ"

うん。そうだね



次の日の朝、ルーカスと共に朝食を終えた後、フロスト山に向かう。

シルフの機嫌が悪くて、移動速度UPシルフィの消費MPが20もかかった。

今日はMPを無駄に消費したくなかったんだけどな。

"知るか。あんなヤツ置いていけばいいっていつも言ってるだろ"


「……出てきたな」

相変わらずルーカスはモンスターを察知するのが早い。

「手筈通り、俺がデカウサギを引き付けて合図するから、魔法で…」

「ルーカス。魔法攻撃はオレンジデカウサギに大ダメージを与えることができますが、毛皮にもダメージが入ってしまいます。」

「報酬がちょっと減るくらいだから気にしなくていいよ」

「私、オレンジウサギの耳の先から脚の付け根くらいまでの大きさであれば、水を操ることができます。」

「……!なるほど、ありがとう!」


私がオレンジデカウサギを視認した時、既にルーカスは走り出していた。

1体、2体とヘイトを集めていく。

あっ………最後まで説明しなくても意図が伝わったと思って喜んじゃったけど、5体まとめて片付けられると思われている?1体ぶんなら出来るって意味だったのに。


"だいじょうぶ。あの人はリリィなら出来るって判断したのよ。私もそう思う"

ラランクリア……力を貸してくれる?

"もちろんよ。リリィは詠唱に集中して"


ルーカスがオレンジデカウサギを引き付けてくれているのでこちらに向かってくる様子はなかったけど、本当に出来るのか不安で、水の球が揺らいでしまう。


"オレの力も貸してやるよ。さっきお前があのニンゲンにかけた補助の効果を上乗せしておいた。そのかわり効果時間が短くなってるから、早めに片付けるんだな"

シルフ…!ありがとう。

"リルの魔力を20も頂いて腹いっぱいになっただけださ。集中しな"



上空に集めた水の玉はどんどん大きくなる。これで5体ぶんくらいあるだろうか。

"うん。私から見てもウサギ5体分あるわ。あとはこれを落とすだけね"


オレンジデカウサギに気付かれないようゆっくりと、彼らの頭上に移動させていく。

ルーカスがオレンジデカウサギ5体に完全に囲まれた。

「今だ!」


合図が来たのに、水球を操る手が止まってしまう。

ルーカスの背丈はオレンジデカウサギの脚の付け根より高かった。このまま落とせばルーカスにもダメージが入る。

ど、どうしよう……?ルーカスは気付いていない…?


「問題ない!やれ!」


ルーカスの言葉を信じて水球を急降下させた。耳の先から脚の付け根までたっぷり水に浸かり、オレンジデカウサギが苦しみ悶える。

頃合いを見て解除すると、デカウサギの脚から上が地面に転がった。


"リリィ、すごいわ。見てた?あの人、水が落ちてきた瞬間にかがんで回避したわ。タイミングがわかったのかしら"

水を消した瞬間に回転斬りを使ったところは見えた。


「リリィ、やったな!」

右手を軽く上げてルーカスが駆け寄ってくる。私は自分の右手を上げ、ルーカスの手をパシっと叩いた。

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