里帰り

町に戻り、遅めの昼食をとってから、ふたりで防具店に行った。


「こっちはリリィのぶんだ」

オレンジデカウサギの脚を無傷で10本も手に入れたので、ルーカスは脚の装備を新調した上で強化し、同じものを私にも作ってくれた。

おそろいの装備なんて、いかにも冒険者仲間っぽくて心が躍る。しかもこれはふたりで協力して手に入れたものだ。


防具店から出て少し歩いたところにある広場まで歩き、石造りの長椅子に腰を下ろす。

やわらかな風が頬を撫でていく。静かでいい町だな…


私がそんなことを考えていると、隣にいるルーカスが口を開いた。

「リリィも戦闘に慣れてきたようだし、ギルドのメンバー募集を再開して次はもう少し難易度が高いクエストをやってみるか」

あ……そうか、本来のギルドってもっと人がいるものだった。ルーカス以外のメンバーとうまく付き合う自信がなかったけど、高難度のクエストに挑むには人数が必要だ。


「まだポイント足りてないか~……」

ルーカスはナビストーンを操作して自分のステータスを確認している。

ギルドに加入しているとクエストクリア時に一定のポイントが貰え、貢献度が高ければさらに加算されるシステムがあり、そのポイント数に応じて様々な特典がある。

「募集メンバーに応募条件を付けるのはまだ無理だったから、とりあえず募集してみて、来たヤツの職業から次に何を受注するか考えよう」



管理局に移動し、メンバー募集の紙を掲示板に貼るとすぐに応募者がやってきた。

ランクBの弓使いと、ランクCの僧侶。

条件なしだったのにバランスが良いとルーカスは喜んでいるけど、自分がコネを使って参加申請を弾いていたことを思い出して猛反省した。こんなにすぐ応募があるなら止めておいた良かったと安堵する気持ちも少しあったけど。

「このメンバーだったら★5以上のクエストでもイケそうだけど、ここには★4以下しか出てないなぁ…」

掲示板に出ていないクエスト情報を求めて受付カウンターに向かうルーカス。

私は新規メンバーと取り残されてちょっと気まずかった。2人とも、加入時にルーカスから渡された例の靴に履き替えている。


あの靴、他にも作ってたんだ…みんな…おそろい…仲間っぽい…


しばらくしてルーカスが戻ってきた。

「皆、さっそくで悪いんだけど出発できるか?」

ルーカスが地図を広げて説明する。

「ここから北西にある港町ノスウェル付近に、大型魔物キュクロプスが出たらしい。日が暮れる前にここを発ち、今日は野営して、明日の朝討伐しよう」


地図でノスウェルの町の場所を確認する。故郷の森の近くだ。

「あの。それって現地集合でもいいですか?」

ルーカスが「ああ…」と新メンバー2名の顔を見る。

「野営の設備は2セット持っていくから、リリィは片方一人で使っていいぞ」

「あっ!ごめんなさいそういうことじゃなくて、あの、実家の近くだから、顔を出しにいこうかと」

「そういえばこの近くに住んでたって言ってたな。朝10時くらいまでなら魔物を観察しながら待機しておくから、ゆっくりしてきな」



森の入り口に着いた頃には夜になってしまっていた。入口といっても目印になるようなものなんてなくて、ただここから入ってまっすぐ進めば家があるってだけなんだけど。


あの日、森を抜けて左に進んでいたらノスウェルの町に辿り着き、お医者さんを困らせていたかもしれない。レンチェ村に行かなかった場合の人生がどうなっていたのか想像してみた。今の方がずっと楽しいと改めて実感し、森に足を踏み入れた。


"あっ!リル!リルが帰ってきた!"

"リル?"

"リルだーおかえりーリルー"

木々に隠れていた精霊たちが一斉に顔を出してきて、とてもにぎやかな空気のなかで帰宅した。


いったん荷物を置いてから、お母さんとおばあちゃんのお墓に向かった。

水と風の魔法を使ってお墓をきれいにする。ラランクリアは魔法学校で契約した精霊だけど、森の精霊たちとも仲良くおしゃべりしていた。


おばあちゃん。私は夢を叶えたよ。

お母さん。お父さんは元気だよ。私の夢を応援してくれた。



おばあちゃんが死んじゃった時のことを考えると、まだ少し涙が出る。

お父さんからお母さんの話を色々聞かせてもらった今では、お母さんのことを覚えていないのをとても残念に思う。


もっといろいろ話したいことがあったけど、明日は早いので家に戻って床に就いた。

まだ眠くないので目を閉じてぼーっとする。

帝都に戻る機会があったらお父さんにも報告しに行きたいな…

私はルーカスのギルドでうまくやってるよ…


"リル。このひと、前にリルを助けてくれたおとこのこじゃない?"

え?


精霊には頭に浮かんだことがそのまま伝わる。頭の中に流れる音楽や映像をそのまま伝えることができる。

森で過ごしていた頃は気にしていなかったんだけど、私も年頃になってきて考えてることが全部伝わってしまうのが恥ずかしくなり、四六時中一緒にいるシルフには思考が伝わらないように制限していた。シルフの方も気を遣ってくれて、必要な時以外は隠れてることが多い。久しぶりに森に帰ってきて気が緩んでるんだろうな…。


"気なんか遣ってないよ。リルがあのニンゲンのことばっかり考えてるから、オエーってなって隠れてるんだ"

"そうなの?考えてるの?リルはそのひとのことが好きなの?"

うん。そうだね。私が尊敬してるひと。すごく強いんだ。

"リッパなひとなんだね~!"

そうだね……



次の日。

日の出前に目を覚ました私は、おばあちゃんの希少素材や森の薬草などをお土産にして、ルーカスがナビストーンで連絡してきた野営拠点に向かって出発した。

決意を新たに、冒険者として頑張っていこう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る