勇者様の恋人
私が冒険者としての活動を始めてから半年ほど経ったころ、昇級認定試験のために帝都に行くことになった。
「数ヶ月離れてただけなのになんだか懐かしいな。俺、独り立ちする前は帝都を活動拠点にしているギルドにいたんだよ」
馬車に揺られながら、その進行方向を見つめて、ルーカスは目を細めた。
「あ、だから自由時間長めなんですかぁ?」
2週間前にこのギルドに加入した拳闘士がたずねる。
ギルドのランクが上がってメンバーも増えていたけど、帝都行きパーティのメンバーは私と弓使いと拳闘士、そしてギルドマスターのルーカスを入れて4人だけだった。
試験を受けないンバーは拠点に残って近隣のクエストを請け負って過ごすらしい。
「世話になった人には挨拶に行くつもりだけど…帝都は装備品の店も充実してるし、物品補給もしていくよ」
「私帝都初めてなんで、お買い物楽しみです!」
拳闘士の子は試験は受けないみたいだけど、外国生まれで帝都がどんなものか見てみたいということでついてきた。私もお父さんに顔を見せに行かなきゃ。
「あの…私…の分の宿代は、いりません。泊るところがあります。」
「え!リリィちゃんもしかして帝都出身?!」
「あ……えっと…」
帝都出身じゃないけど、もうひとつの実家がある。なんて説明すればいいんだろう。
ギルド内で一番年が近いのがこの拳闘士の子なのに、あまり打ち解けられていない。
ずっと前を向いていたルーカスが、あっと声を漏らす。
「ほらほら、帝都が見えてきたぞ」
「おおーっ!!あれが!」
みんなが一斉に身を乗り出した。
◇
ぶじ帝都に到着、今日は移動日ということでパーティとしての活動はなし。宿屋の前で他のみんなと別れて、私は3か月ぶりに帝都の家に帰った。
「リリィ~~!!」
お父さんが涙を流しながら私を抱きしめる。まだお仕事中かと思ったのに…
「リリィが帰ってくるって知らせを受けて、今日は休みをとったんだ。さぁ、冒険の話をたくさん聞かせておくれ!」
意外にも、お父さんは私の戦績をチェックしていなかった。私から直接話を聞くために見ないようにしているみたい。
私が今までどんなクエストをこなしてきたか話すと、「そんな危ない魔物はだめだ!」「え?倒したのか?」「リリィはすごいなぁ~」というような反応を繰り返していて面白かった。
◇
昇級試験の結果は、ルーカスがA+、弓使いさんがB+、私もB+だった。
「あれ?」
ルーカスが結果を見て意外そうな顔をしている。
「リリィはB+なのか。ランクAは堅いなと思ってたのに…」
私の素の実力なんてこんなものだ。いつもは精霊の加護があるから効果は1割増しだし、傍目からは無詠唱に見えるけど、今日は
ちょっと悔しい。
「もしかして、初めての試験で緊張してうまくやれなかったのか…?」
う。少し涙がにじんだ。
ルーカスは「次の機会に頑張ればいいよ」と言ながら私の背中をぽんぽんと叩いた。
もっと練習頑張ろう。
◇
それからさらに月日が流れ、ギルド結成から1年ほど経った。
先月ルーカスがランクSに昇格したので活動拠点を冒険者が集う街・ナークワアガに移し、活動の場を広げていた。
複数の依頼を同時進行でこなせるくらいにギルドのメンバーが増えていたのだけど、例の拳闘士の子とはよく同じパーティになるので、2人になる機会があればクエスト外でも会話するようになっていた。
名前はマノンといい、年はひとつ上の16歳。出会った頃よりずっと大人びた体つきになっていて、肉体美を魅せる拳闘士の装備がとてもよく似合っている。
ある時、拠点近くのカフェで朝食を取っていると、マノンと相席になった。
マノンは周囲を警戒するように見回してから、ひそひそ声で話しかけてきた。
「ねね、リリィちゃんってずっとこのギルドにいるんだよね。ルーカスって恋人いるのかなぁ?リリィちゃん知ってる?」
え……?
「し……知らない……」
「そっかぁ。リリィちゃんでも知らないってことは、いないってことでいいのかなぁ。」
考えたことがなかった。そういえば街中で女の人と一緒にいるところを見かけることもある。でも同じ人ではない。
それをマノンに話してみた。
「わわっ、マジ…!?」
マノンの頬が赤く染まる。
「でもそれは、たぶんアレよ、特定の人はいないって事だよね。ありがと!」
そう言ってマノンは朝食を一気に口へかきこみ、走って食堂を出て行った。
マノンとよく同じパーティになるのは…ルーカスがいるからだ。
ルーカスはギルド内で人気の低いクエストを優先して受け持っているので、自分もそのクエストを希望すれば簡単に同じパーティに入れる。
マノンはルーカスの事が好きなんだ。
私は朝食を残した。
その日のクエストは散々だった。
マノンとルーカスの立ち位置が計画より近いんじゃないかとか、今のルーカスの攻撃はマノンを守るためにやったんじゃないかとか、余計なことをぐるぐると考えてしまって、クエスト貢献度ポイントの加算が0だった。
体調が悪いのではないかとメンバーに心配されてしまい、早めに宿に戻って休むことになったけど、夜になっても全く寝付けなかった。
何か食べ物でも貰えないかなと食堂へ向かうと……中から誰かの声がした。
ルーカスとマノンだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます