第62話 恐ろしいことに
官兵衛と修平君がこんなに怒っていた原因に、私は気づいて、私はゾッとした。
ねぇ……ひょっとして、官兵衛の人招きの能力。
店に害なす者を、店に近づけないという人招き……、お爺さん達に発動しちゃったんじゃない?
「違う、断じて違う! 違うのだ!」
そう言いながらも、官兵衛の声、これ泣いてない?
官兵衛、官兵衛そうね。違うよね!
私は、官兵衛をトートバッグごと抱きしめる。違う、違うのだ。もう、取り戻せないこと、違うということになるべきなのだ。
だって、たぶんお爺さん達もそんなこと予想していなかったし、官兵衛だって思ってもみないことだったのだろう。
「帰りに事故に遭ったと聞いて、儂は、これは儂への天罰なんだと思った……。だから、磯村時也との連絡を絶って、店を畳んだんだ」
「そうですか……」
修平君は、そう言うと、立ち上がって玄関に向かう。
責められないのだ、優しい修平君には。
妹島さんは別に犯罪をしたわけじゃない。ただ、妹島さんの身勝手な申し出に、お爺さん達が全力で救いの手を差し伸べただけ。
その結果で起こってしまった不幸な事故なのだから。
常識のある大人な修平君が言えないなら、私のすべきことは、決まっている。
「勝手です! お爺さん達は、あなたの罪を償うために亡くなったわけじゃないです! 勝手に天罰なんかにしないでください!」
修平君が言えないなら、私が言ってやろうじゃないか!
亡くなった人の孫を前にして、どんな酷いことを言っているか、ちょっとは考えればいいんだ。
「事故の責任は、妹島さんにないかもしれませんが、妹島さんが身勝手なことを言ったから、修平君のお爺さんは、ずいぶんと悩んでいたようです! それこそ、大切な店を畳んでまであなたを助けようとしたんです! その気持ち、悪用しようとしたんだということを、一生忘れないでください。少なくとも私は一生妹島さんを信用しませんし、許しません!」
この人は、自分が助かるためには、友人を犠牲にする人だ。そんな人、私は信用できない。
息切れするくらい捲し立ててやった。
がっくりと項垂れる妹島さんを残して、私達は車に戻った。
帰り道、ずっと修平君も官兵衛も無言だった。助手席の私も、何も言うことができなかった。
いつも明るい官兵衛といえども、妹島さんのお話には、相当ショックを受けたようだ。
官兵衛にとって、修平君のお爺さん達は、大切な家族だったに違いないのだ。
その家族が、官兵衛を守るために、亡くなったなんて、辛すぎることだ。
「理恵子さん、このまま……寄りたいところがあるのですが、よいですか?」
修平君にそう言われて、私に断る理由なんてなかった。
「うん。いいよ」
修平君は何も言わないけれども、私には行き先の検討がついていた。
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