第47話 お店再開!

 定食屋さんのお仕事は再開した。

 再開した定食屋さんを私も当然手伝う。

 官兵衛は定位置でいつものように招き猫をしている。目を開いたまま微動だにしないから(まあ、招き猫の時は、木製の置物だし)、寝ている可能性もあるけれど。


 美久は、私がいない間に、お母さんが退院してお家に戻ったらしい。


 美来は、政さんに野菜を分けてもらって、修平君に教えてくれたおじやを、お母さんに作ったらしい。

 お母さんは、すごく喜んでくれたそうだ。

 私も、その場にはぜひ立ち会いたかった。


 納言に捕まってさえなければ、私も食べられたのに。とっても残念だ。


 でも、美久は、これからも店にはちょくちょく顔を出すつもり満々みたいだし、夏休みや冬休みにはお泊りに来るのだと息巻いていたというから、すぐ再会できるだろう。

 その時にでも、美久には腕前を披露してもらおう。


 修平君にピッタリくっついていた美久だから、晴れて修平君の恋人となった私のことは邪魔扱いしそうだ、戻って来なくて良いのに……。なんて、嫌みを言われそうだが、それも楽しいだろう。うん。


 とにかく、今は、修平君と私と官兵衛。この二人と一匹で無事店を再開させるのだ。


「久しぶり!」


 開店と同時に来店した政さんが、ニコニコしながらカウンター席に座る。

 

「お! やっと復活したのか! どこで何をやっていたんだい?」

「ええっと……」


 突然話を振られても、困る。

 だが、常連の政さんだ。これは……説明しなければならないだろう。


「実はですね……」


 私の長いしどろもどろな説明に、政さんが大笑いする。

 もちろん、官兵衛の話は濁しているから、所々話はすっ飛ばしているが、『婚約者の元から逃走して、偽名まで使っていた』というのは、なんとか伝わったようだ。


「そりゃまた、大馬鹿……いやいや」


 ううっ。分かっているわよ。大馬鹿だってことは。


「まあ、説教じみたことは言っても今さらだ。自分で骨身にしみているだろう?」

「はい……」

「もどって来れてよかったじゃないか」

「はい……」


 政さん優しい。

 きっと聞きたい事は山ほどあるだろうが、それ以上は政さんは聞かない。 

 政さんは、注文したぶりの照り焼き定食をほぐし、白いご飯と一緒にゆっくりと箸で口に運ぶ。


 甘辛い味付けのタレで表面がキラキラと輝くふっくらとしたぶりの身は、政さんが箸を入れた途端に湯気を立ち上らせる。

 


「何にせよ。店に戻って来てくれてよかったよ。修平が元気なくってね」

「え、修平君が?」

「ああ。幽……理恵子ちゃんがいなくなって大変だったさ。石崎のババアが、励ましても全然効果なくって」

「石崎さんが」

「そう。そして、ババアが息子に電話して幽子探しに行かせるっていうのを、皆で止めてさ」


 そりゃ、止めてくれて良かった。

 磯村の屋敷に石崎さん親子まで乱入したら、さらに面倒なことになっていた。


「修平が自分で探しに行くって言うからさ。任せたんだけれども……帰ってきて良かった」


 政さんが目を細めたのは、ブリの照り焼きが美味しかったからだけではないだろう。本当に、私がこの定食屋さんに戻ってきたことを喜んでくれているのだ。

 良かった。

 私だけが、この場所へ戻りたいわけではなかったのだ。

 優しい修平君が、私を心配してくれていただけではない。

 短い間だったのに、この定食屋さんの常連は、私を認めて、私の場所を作ってくれていたのだ。


「それこそが、人の繋がり。崇高なる『人招き』の技なのじゃ」


 どうやら起きていたらしい官兵衛が、私にドヤってくる。

 太陽がある時間。招き猫の姿の官兵衛の言葉は、私と修平君にしか聞こえないらしいが……そんな風にちょいちょいとおしゃべりしていたら、その内にバレて、大騒ぎになりそうだと思うんだけれど。


「我に抜かりはないのじゃ!」


 ……どうだか。

 フンスと胸を張る官兵衛を、私は疑いの目でみる。

 それよりも官兵衛、本当に大丈夫なんでしょうね?

 例の宝くじ、本日が当選日なのだ。


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