第48話 当選確認
お店が終わってから、私は居間に使っている畳の部屋で急いでパソコンでネットを繋ぐ。
確認しなきゃ!
官兵衛が、グググっといつもと違うお手々をあげて招いたのだから、ちゃんと当選しているとは思うのだけれども、何だか不安だ。
「我が招いたのじゃ! 何とかなるだろう」
夜になって黒猫姿の官兵衛は、やれやれと伸びをしてのん気にあくびをする。
「だって、官兵衛は金招きしたことないでしょ?」
「ない! 長い長い歴史の中でやりたいとも思わなかった」
「そう。初の試みなのよ。だから不安なのよ」
インターネットで、当選番号を調べて私は青ざめる。
「ちょっと! 官兵衛! 番号がないじゃない!」
「んにゃ? 我はちゃんと招いたぞ? こう……グググっと」
プルプルと官兵衛がいつもと違う手をあげる。
「もう無理じゃ。やはり、こんな物は猫生一度きりじゃの」
「でも、招けてないじゃない」
「仕方なかろう? 何がどうなったかは分からんが、宝くじには我の金招きは利かななかったのだろう? それだけだ」
しれっとした表情で官兵衛がのたまう。
仕方ない……。そりゃ、そうだけれども。
そもそも借金した私が悪いのは、重々承知している。でも、期待を裏切られるのは辛い。
これで、なんとか借金を返してスッキリと清算できると思っていたのに。
やっぱり、こういう物は、他力本願では駄目なんだろうか。
「うわぁ……。どうしよう」
ゴロンと畳に仰向けになってガックリと意気消沈する私の腹の上に官兵衛が乗る。
「理恵子よ。こうなったら、コツコツと自分の力で返すのじゃな」
金色の目を細めた官兵衛のド正論、落ち込んだ心にぐっさりと刺さる。
ううっ……。
「あれ? 駄目でしたか?」
厨房から戻ってきた修平君が、落ち込んだ私を見て声を掛けてくれる。
「うん。駄目だった」
「そうですか……」
エプロンで手を拭きながら、修平君も机の上に散らばった宝くじの番号を確認してくれる。
「やっぱりありませんね。番号」
「うん……地道に何とかしないとね」
「そうは言っても、早く返さなければ、また磯村の誰かが理恵子さんや官兵衛を手に入れる口実にするかも知れないですよ?」
「そうなんだけど。お金なんて無いし」
官兵衛をお腹に乗せたまま、私は盛大にため息をつく。
……やっぱり、ここにいるべきじゃないのかも。
借金をしたのは、私だ。修平君でも官兵衛でもない。
借金をした私がここにいるから、修平君や官兵衛を巻き込んでしまうのだから、私がここを去れば、磯村時也だって官兵衛達に危害を加えてられなくなるんじゃないかな。
また、こっそりと抜け出して、姿を消すべきなのかも。
「愚か者め」
「ふえぇ?」
しまった。官兵衛に心を読まれてしまった。
「良いか? 納言達のそもそも狙いは、この超絶有能な我なのじゃ! 理恵子がいなくなったところで、定食屋はここにあるのだから磯村の手は遅かれ早かれまた来るのじゃ」
「官兵衛が超絶有能かは、置いておいて。でも、私の借金は大きな弱点になるじゃない!」
「ふむ。だからこそ、この高貴なる我が、信念を曲げてまで『金招き』をしてやったではないか!」
「でも……宝くじ、当たってなかったし」
「どんな優秀な刃でも、使いこなせなければ、なまくらと同じなのじゃ! 我のせいではない!」
フイッと横をむく官兵衛。
えっと……? どういうことよ?
タンタンタン……。
「はい!」
店のガラス戸を叩く音がして、修平君が立ち上がる。
「すみません……もう営業は……」
店の方から修平君の話し声がする。
相手の言葉は、ボソボソ言っていて聞き取れない。
「ええっ! そんな……いや……でも……」
なんだか修平君が困っている。
「ちょっと、官兵衛? また変な人来ちゃったんじゃない?」
「何を言うか! この我の目が黒いうちは修平に害なす者を寄せ付けはせん」
思いっきり、寄せ付けている気がしなくもないけれど。
とりあえず、お腹の上でくつろぐ官兵衛をどけて、私は立ち上がる。
修平君が困っているならば助けなきゃ。
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