第19話 どうやらダメでした
官兵衛の言葉が響き渡った後、辺りは静まり返る。
さわさわと長閑に渡る風。
虫の音が、とっても可愛いらしい。
田舎の夜の畑。
真っ暗でちょっと怖いけれど、穏やかだ。
「誰も来ないじゃない」
「我はちゃんと招いた」
「どういうことよ?」
官兵衛の説明によれば、特定の人物を招いた場合、起こりうることらしい。「千客万来」は、テレポートさせて招くわけではないから、相手が遠いところにいれば、すぐには来ない。
たとえば、招いた相手が海外にいるならば、飛行機に乗って招いた場所まで来なければならないから、相当な時間がかかるのだ。
「ええ〜! じゃあ、犯人は今日来ないかもしれないの?」
「当然じゃ。ちょっと考えれば分かることであろう」
いや、知らないし。
てっきり、サッと招いたら、パッと犯人が現れると思っていた。
何よ。それ。じゃあ、犯人が分からないじゃない。
使えない招き猫め。
「あれ? なにしているんですか? こんなところで」
呼ばれて振り返れば、修平君。美久も一緒にいる。
美久の姿を見て、官兵衛は姿を隠してしまった。二人が現れたことだし、仕事は終わったと判断して、夜の散歩に行ってしまったのかも。
「あ……ええっと、野菜泥棒が来ないかなぁって思って」
「え、一人で捕まえようとしてたんですか? そんな危険な!」
言うと思ったよ。修平君なら。
そうやって反対されると思ったから、一人と官兵衛で実行したのだ。
「ごめんなさい。でも犯人は来なくて」
「いえ、何もなくて良かったです」
帰りましょう、と促されて迷う。
これから、もう少ししたら犯人が来るかもしれない。せっかく官兵衛に招いてもらったのだし。犯人が海外とかじゃなくて車で二十分くらいの距離にいたとすれば、もうすぐ来る頃じゃない?
できれば、もう少し粘ってみたい。
「もうちょっと私は畑を監視してみるから、修平君は、美久を連れて先に帰っていて」
「そんなの出来ませんよ。どうしてもって言うなら、幽子さんが美久ちゃんと先に帰っていて下さい。僕が見張りをします」
「ええ〜。せっかく修平さんとのお散歩なのに!」
分かってはいたが、やはりモメる。
三人でワーワー言い争っていると、畦道に人影。
え、犯人? こんなに騒いでいたのに、招かれてきたの??
「なーにをしとるんじゃ!」
みれば、政さんが立っている。
そりゃ……そうよね。だよね。
政さんの畑だし。そこで人の気配がすれば、気になって見に来るよね。
それに、仕方ないよね。仮に犯人が招かれていたとしても、この状況。
犯人は、人の気配にとっとと逃げているよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます