第20話 政さんの家
広い平屋建てのお家。
その座敷で、お野菜の煮しめ、天ぷらなどを皆でいただく。
政さんの野菜。料理したのは修平君。
わ、私も少しは手伝った。天ぷらの粉混ぜるとか。あまり混ぜ過ぎないようにって、修平君に注意されて、美久が勝ち誇った顔で見ていたけれど。
政さんの家は、代々農家だったけれども、今は小さな畑だけ。
「昔、親父の頃は、ここいら一帯の畑や田を管理しとったんだ」
そう言って政さんは笑った。
それが、働き手が居なくなり、休耕地になり、手放して。
「息子さんは、継がなかったんですか?」
電話の横に飾っているのは、家族の写真だろう。それならば、息子さんも孫もいるはず。
「うん。学校の先生になりたいって言ったから、畑売った金で大学行かせた。今は……そうだな、電車で二時間くらいかかる場所に住んで、時々孫を連れて来てくれる」
政さんは、目を細めて愛おしそうに写真を見つめる。お孫さんの年は、美久とそう変わらない感じ? 少年が嬉しそうに掲げているきゅうりは、政さんの畑で一緒に収穫した物だろう。
美久は、その写真をじっと見つめている。
同じ年頃の少年、あまりに幸せそうな笑顔が気になったのかな。
「いいなぁ」
羨ましいそうに、ボツリと言葉を美久がこぼす。
美久のお母さんは、現在入院中。
私達に大切な美久を預けたくらいだから、近くに信頼して頼れるような親戚はいないのだろう。
「はっはっは! この集落の子は、みぃんな孫みたいなものじゃ!」
美久の心を察したのか、政さんがそう言って笑う。
「修平だってそうだぞ。コイツは、気ィ弱くってな。初めは生きている魚に包丁を入れるのも出来んかった! それにな、昆虫採集の宿題が出来た時にも、どうしても虫をピンで刺すのが出来んで、泣いておって」
「政さん、僕の昔の話はもういいでしょ!」
慌てて政さんの話を遮る修平君。
なんとも優しい修平君らしい話だ。
いるよね、こんな風に昔の話をする大人。親戚とか先生とか、久しぶりに会うと必ず小さい頃の失敗なんかを話題にするの。
美久が政さんの話に楽しそうにフフフと笑う。
良かった。昔のことを暴露されて慌てている修平君には悪いけれど、美久の気は少しは晴れたようだ。
今日は賑やかで楽しいと、政さんは上機嫌。新鮮な野菜で作ったシンプルで優しいお味の料理は美味しい。
残念ながら野菜泥棒探しは空振りだった。
でも、まぁ、こんな風にゆったりと楽しく美味しいものを食べられたなら良いか。
そう思って諦めかけた時。
「ごめんなさい」
美久が思わぬ言葉を発した。
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