第43話 さぁ第一陣!
私は、それから、時也と納言の生活パターンを調査した。
もちろん、逃げ出すのに最適な時間をはかるため。
そして、ついに、計画は実行にうつされた!
お昼間、時也と納言は書斎で仕事をしている。
納言の能力を使って、今は書斎でデイトレーディングの最中のはずだ。
そう、時也は言っていたもの。
ちょっとしたことで乱高下する株の世界だが、納言の金招きの能力を使えば、いつ売買すれば良いかは、明確。
「FXでさらに利益率をアップするのですよ」と、時也は言っていた。「妾は分からぬからのぉ。その新しい仕組みは。時也にそのへんは任せておるのじゃ」納言は、そう言って、時也の頬にスリスリとしていた。
時也と納言は息ピッタリだ。
じゃあ、そこで完結していて。私や官兵衛まで巻き込まないで欲しいの。
私は、お昼間の招き猫姿の官兵衛をパーカーのポケットに入れて周囲を見回す。
扉の前には、監視しているおじさんが二人。中庭には、四、五人。
とても私では敵わない、大きな体の男達が、屋敷中をウロウロしている。
「官兵衛、お願い」
――千客万来!!
官兵衛の呼び声で、ざわざわと『招いたモノ』達が、集まり出す。
「ひぃぃぃぃ!!」
扉の向こうで悲鳴があがっている。
中庭でも、大の大人たちが慌てている。
私が官兵衛にお願いして招いてもらったモノ。それは、ネズミだ。
周辺の下水や路地裏に潜んでいる大量のドブネズミ君が、この屋敷に集結しているのだ。
あ、いや……黒いツヤツヤの名前を言うのも憚られるあの虫でも良かったんだけれども、私が苦手で……。官兵衛は、あっちの方がたくさんいるし面白いって言ったんだけれどもね。
窓の外を見れば、大量のドブネズミ君達が、中庭を走り回っているのが分かる。
「うおおおおお!」
五匹くらいの巨大なドブネズミに足を駆け上がられ、野太い悲鳴をあげて腰を抜かす男、ひっくり返った仲間を置いて走って逃げる男、その辺の岩に登ってやり過ごそうあたふたしている男。
見ていてとても面白いが、ここは逃げなきゃ。そのためにドブネズミ君に協力してもらったのだ。
「さ、行くわよ」
私は官兵衛をポケットに入れ、リュックを一つ背負ってそっと扉を開ける。
……誰も廊下にはいない。
ドブネズミ君に追われてどこかの部屋へと逃げたのだろう。
見つからないように慎重に歩みを進める。
まだ、チョロチョロと小さなネズミが廊下を時々歩き回っているが、可愛いモノだ。うん。だって、足は六本じゃないもの。あの、うじゃうじゃ、ゾワゾワッとした動きをしないんだもの。ハムスター何かよりもずっと大きくって、迫力はあるけれども、まだ理解できる。
やっぱり虫じゃなくって良かった。
虫だったら、見ただけで身の毛がよだって足がすくんでしまうところだ。
物音を立てないように、一歩ずつ進む。
玄関は、もうすぐだ。
だが、官兵衛の能力を使ったのだ。あの納言が、官兵衛の存在に気づかないわけがないのだ。
そろそろ納言が顔を出すに決まっている。
先手を打たなければならないだろう。
「官兵衛、第二陣の準備してっ!」
「言われんでも分かっておる!」
――千客万来!!
官兵衛は、ドブネズミ君の去った屋敷に、新たなる客を招いた。
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