第44話 第二陣

 官兵衛が第二陣を呼んだ。

 ちょっと時間かかるかな? ドブネズミ君達は、それほど限定せずにともかく数を集めたが……今回は、ちょっと限定した。時間がかかるかもしれない。


「なかなかハードルは高いと思うぞ?」

「そうかなぁ。結構いけるんじゃない?」


 官兵衛と私が、玄関を目指す。


「待ちなさい! 今! お兄様の力を感じたわ!」


 玄関に手をかけたところで、納言の声が響く。

 振り返れば、納言を手に持った時也が立っている。

 ……間に合わなかったか……。

 官兵衛の招いた第二陣が来る前に、納言達に見つかってしまった。


「隠していたんですね? 理恵子さん。ヤレヤレ、三億のもうけをフイにして中断して来たんですよ?」

「一瞬でそんなに儲かるなら、私の借金くらい大目にみてよ」

「そういうわけにはいきません」


 そりゃそうよね。

 借金を大目に見ろなんて借りてる方が言っていい言葉でもない。

 ええ、私が悪いんです。


「お兄様! 早くお兄様を出して!」

「理恵子、ポケットから出せ」

「え、いいの?」


 私は、官兵衛をポケットから取り出して、手の上に乗せる。


「お兄様……なんとも古ぼけて……ご苦労なさったんですね」

「いや、確かに官兵衛は古ぼけて小汚いけれども、修平君は大切にしていたわよ?」

「小汚いをシレッと付け足すな。小汚くはない。年季の入った手すさびの良さという物だ。味わいというのじゃ」


 官兵衛がむくれている。

 木製招き猫姿だし、表情は変わらないけれど絶対に機嫌が悪い。


「納言よ。我はぜっったいに嫌だからな! 磯村の軍門には下らんのだ!」


 軍門なんだ。

 てか、ずいぶんとはっきり宣言したわね。


「そんな意見は聞いておりませんわ!」

「え?」

「何じゃと?」

「お兄様がどう思おうが、それは別です」


 いやいやいやいや、どこに別要素があるのよ?

 官兵衛の気持ち、とっても大切でしょ? むしろ、そこが一番大事説もないかしら?


「良いですか? 妾がお兄様と一緒にいたいと申しているのです。ならば、超絶可愛いこの妾の望みは、叶えるのがお兄様の役割。幸運を司る招き猫の矜持ではありませんか?」

「幸運を司る招き猫の矜持を、勝手に味噌蔵に兄を閉じ込める奴が語るな」

「妹一人を幸せに出来ずに何を仰るのやら!」


 兄の官兵衛の幸せは二の次か? 納言よ?

 時也も口を挟んでくる。


「どうして、そんなに磯崎にこだわるのです? 磯村にいれば、店の油と埃にまみれることも、そんな風に古ぼけることもなく、温度湿度管理の行き届いた部屋でケアしてあげられるのに」


 まあ、確かに、納言の方が保存状態は良い。時也の言い分にも一理ある。

 もっと長い年月が経ったときに、どちらの招き猫が長持ちするかと言えば、そりゃ、納言だろう。


「時也よ、我は人を招く猫ぞ。それが、人の生活の前に立たずしていかがする」


 良いことを言ってるようだけれども、一度逃げているのよね。この猫。人を招くのか嫌になって、姿を隠したことがあるって言っていたのよ。


「理恵子心の声がうるさい! 確かに我は一度人が嫌になった。だが、だからこそなのじゃ。だからこそ、人の善しも悪しも分かる。修平は良い子じゃ。人と人の繋がりを大切に出来る修平を守ることこそ、人招きの猫たるこの官兵衛招き猫の矜持」

「お兄様……」

「納言、諦めよ。決して味噌蔵に怯えているわけではない。ただ、我の生きざまなのじゃ」


 味噌蔵には、確実に怯えている官兵衛だけども、官兵衛の心からの言葉だ。

 納言は聞き入れてくれるかしら?

 官兵衛、結構大事なことを言ったわよ? 


「納言様、ここは諦めますか?」

「嫌よ! 絶対いや!」


 駄目みたいだ。時也は、官兵衛の心を聞いて諦めてくれそうだったのに残念。

 納言の言いなりの時也だものきっと……


「納言様が嫌だって言っているなら、しかたありませんね。その矜持は、捨ててくれませんか?」


 やっぱりそうなるよね。そういうところだぞ、時也。そういう所が、私はとっても嫌なのだ。

 やっぱり、第二陣の到着を待つほかなさそうだ……。


「にゃーん」


 玄関の扉を、外からカリカリと掻く音がする。

 あ、これは来たかも。


「やっと来たようね」


 私は、玄関の扉をスッと開ける。

 玄関の前に居たのは、五匹ほどの黒猫。

 どの猫も、庭の石像そっくりだ。なんなら、モデルにした官兵衛よりも石像に似ている。


 イケメンの黒猫、五匹衆。


「ひやああああ!! なんですの! お兄様がいっぱい!」


 納言が目を輝かせて絶叫した。

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