第38話 敵の本拠地
無言の気まずい車が到着したのは、絵に描いたような豪邸だった。
例えるなら……リゾート地の高級ホテルのよう。立派な近代的な建物が建っていた。
「建築家の谷口氏に頼んだのですよ」
その人、美術館とか建てた人じゃなかったっけ? ニューヨークだっけ?
広い敷地。大きな玄関の前に止まった車は、私をそこに降ろす。
「勝手に動かないでくださいよ。探すのが面倒くさいですから」
これだけ広い敷地。
迷子になっても困るから、そりぁ動かないけど。
見まわせば、ため息が出る。
そして、なぜ私なのか本当に分からなくなる。こんなにお金持ちなら、引く手数多でしょう? 婚活アプリとかに登録すれば、お嫁さん候補でコンサート会場も埋まってしまいそうだ。
「理恵子、何だか嫌な気配がする」
ポケットの中の官兵衛が震えている。
「え? 何? 呪われた館的な?」
見渡しても、私には何も感じないが……。
「呪いではないが、最高に嫌~な気配がするのだ。我は黙るぞ。気配を消す。我はいないものと扱え」
「え、ちょ、ちょっと待ってよ。そういうオカルト的な物にこそ、招き猫不思議生物の官兵衛が活躍してくれないと! ちょっと!」
連れて来た意味とは……。
とにかく、本猫が嫌だというなら仕方ない。知らないからね、ゾンビの食べられちゃっても。ゾンビ、いるかどうか分からないけれど。
「さて、占い師の元に案内しましょう」
いつのまにかそばにいた秘書男が、玄関を開ける。
占い師は、この屋敷に住んでいるのだろうか。
玄関の中で生活出来そうな広々とした空間を私は秘書男の後をついて歩く。
「靴は?」
「脱ぎませんね。ここでは」
慣れない。お家の中では靴を脱ぐのは普通でしょう?
「さ、ここへ」
通されたのは、誰もいない部屋。
空調も利いて日差しも程よく入り快適な部屋の中、ソファに座る。大きな猫タワーが設置されているから猫がいるはずなのに、その姿はない。
「誰もいないじゃない」
「いますよ」
見渡しても無人の部屋。どういうことだろう。
ポケットの中の官兵衛も沈黙してしまっているから、何も分からない。
促されるままにソファに座って私は占い師を待つ。
「見つけて来ましたよ。
秘書男がそう言って棚の上から何かを取って来て、テーブルの上に置く。
「三毛猫の招き猫?」
「そう」
テーブルの上に置かれたのは、官兵衛と同じサイズの三毛猫柄の招き猫。
焦げた木をそのまま再利用したサスティナブルな官兵衛とは違い、丁寧に三毛猫の毛並みを絵付けされた可愛い猫だ。
「未来の妻に紹介しよう。僕が君の婚約者、磯村 時也。そして、この子が我が家の占い師、納言様だ」
「
え、ちょっと待ってよ。秘書じゃなかったの? 話をする招き猫って、官兵衛だけじゃなかったの? 色々と情報過多で、脳が追い付かない。
でも、これだけは分かる。
……また、面倒なキャラの濃い猫が出てきた。
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