第31話 なんだか揉めてます
「官兵衛! どういうことよ!」
「知らん! 我のせいではない! 我はちゃんと望まれた通りに招いた!!」
いつのまにか招き猫姿に戻ってしまっている官兵衛。木にペイントされた顔からは、感情は読み取りにくいが、嘘はついていなさそうだ。
まあ、私に疑われて不機嫌そうだけれど。
猫の姿だったら、ツーンとそっぽを向いていそうだ。
「どうしたんですか?」
私の様子に、心配した修平君が聞いてくる。
「私ね、官兵衛に『この店を愛している人』を招いてもらえるように頼んだの」
「え? じゃあ、石崎さんの息子さんも……?」
「そう、そのはずなの。このお店を閉店させて、石崎さんに老人ホームに行けって言った張本人なのに」
私達よりもよっぽどこの市場の事情に通じている常連客達は、この店を閉じることになったいきさつを当然知っている。
ジロリと石崎息子を見る目は冷たい。
それはそうだ。
ここにいる人達は、お店を愛している人達だ。彼らが、石崎さんに店を閉めさせた息子さんを良く思っているわけがないのだ。
あ、ひょっとして、官兵衛の『千客万来』に関係なく、他に何かたまたま用事があって来たとか?
「今さら何しにきやがった!」
一番最初に招かれた常連客が、石崎息子に怒鳴る。
「俺だって知りませんよ。気づいたら、ここに来ていたんです。こんなところ、来る予定はなかったのに」
うーん。どうやら、やっぱり官兵衛の『千客万来』で招かれたようだ。
てか、こんなところって何よ。
本当に店に愛情があって招かれたの?
官兵衛の能力の誤作動?
「我の力を疑うなぞ、無礼な!!」
官兵衛がプンスコ怒っている。
「だって、変なんだもの」
「変じゃない!」
官兵衛と言い争っても埒があかない。
だいたい、手のひらサイズの木製の招き猫と喧嘩するなんてら不毛過ぎ。
「我のことを馬鹿にしおって!」
「また勝手に人の心読んで!」
ベーッッだ!!
官兵衛は、そう言って黙ってしまった。
完全に怒ってしまったのだ。
「ふふっ」
修平君が吹き出す。
「すごいです。幽子さん。僕らは、ずっと官兵衛は神様だと思って接してきたのに」
「わ、ごめん。遠慮なさすぎ?」
人が大切にしている物を、邪険に扱うのは良くない。
「ううん。官兵衛楽しそうですし」
「楽しそう?」
「ちっともじゃ! 修平! 楽しくない!」
「官兵衛!!」
官兵衛ったら、もう。
意地張っちゃって。間違えたなら、間違えたで、素直に謝れば良いのに……。
私が官兵衛と不毛過ぎる喧嘩をしている間に、事態はより深刻になっている。
石崎息子に詰め寄る常連客達。耳を貸さない石崎息子。
「ともかく、こんな店にこだわったって、何も良いことないんだ!!」
イライラした石崎息子の一言に、ますます空気は険悪になる。
「お前! 親父さんとお袋さんが、どれほど苦労して店やって、テメェを育てたか分かっているのか!!」
常連客の誰かが怒鳴る。
いつ殴り合いになってもおかしくない雰囲気。
どうしよう。これ、私のせい? 私が余計なことをしたから?
「幽子のせいじゃ!」
官兵衛、うるさい!
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