第22話 帰り道
そこからは、わあわあと泣く美久をみんなで慰めてなだめるのが大変だった。
修平君にしがみついて離れなくなってしまったから、仕方なく修平君は、政さんの家から帰る道でずぅっと美久を抱っこしたままだった。
泣き疲れて抱っこされたまま眠る美久は、いつもの生意気で負けん気の強い肉食女子ではなく、普通の小さな子どもに見えた。
「よっぽど、よっぽど我慢していたのね」
美久のプニプニほっぺをツンツンと叩きながら私は苦笑いする。
「そりゃあ、お母さんが具合が悪くて入院するくらいですから。不安だし心配だし。きっと、今までもそれを表に出さないで頑張っていたんですよ」
そうよね。まだ小学生だもの。修平君の言う通りかもしれない。
美久の普段の生意気な態度だって、きっとお母さんが心配で気を張っていたからね。
目覚めたら、素直で子どもらしい美久になっているに違いない。
しかし……美久が野菜泥棒事件の犯人ということは……官兵衛は、ちゃんと犯人を招いてくれていたんだ。
ただ、この人が犯人ですって、印がついているわけではないから、気付かなかっただけだった。
すごいな。官兵衛の能力。
すごいけれど、やっぱり微妙に使えない。
これじゃあ、名探偵にはなれそうにない。
官兵衛の能力に思いめぐらせていると、隣で美久を抱えながら歩く修平君が、少しふらつく。
ずっと美久を抱っこして歩いているんだもの、そりゃあ、重いよね。
「修平君、重いでしょ? 変わろうか?」
「いや……それが……」
? どうしたというのだろう。
「がっちりホールドされて、少しも離れないんです」
「は?」
「その……ちょっと、重たくなってきたから、微妙に体勢を変えようとしたんですけれども、微動だにしなくて……」
こ、これは……駄目だ。前言撤回だ。
この小娘……油断も隙も無い。
「美久!! あんた起きているんでしょう? 修平君困っているのよ!! さっさと自分で歩きなさい!!」
私の言葉に、「バレたか」と、美久が目を開ける。
バレたかって、何よ。ちょっと美久のことを心配した私が馬鹿みたいだ。
「ええ? 起きていたんですか?」
「少し前から。でも、せっかく修平さんが抱っこしてくれていたから、そのまま抱っこしていもらいたくって!」
必殺キラキラお目々でニコリと笑う美久。
修平君が困っていると私が言ったからか、すんなりと美久は自分の足て立って歩き出したが、修平君の手は離さない。
「あ、幽子は先に帰っても良いわよ」
何、その態度。私は、カチンとくる。
絶対に美久の思い通りにはさせない。
「誰が野獣少女の前に子ウサギ修平君を置いて先に帰るか。そんな危険な!!」
「子ウサギ?……僕がなんで子ウサギ?」
修平君が首をかしげる。
いかん。この子ウサギ、猛獣を前にして、全く自覚がない。
「あら……幽子ったら、大人のくせに遠慮ってものをしらないのね。無粋ね。そんなにおばちゃんなのに」
「お、おばちゃん?? 私が?」
おばちゃんって言いましたか! 私を!
「……あ、あの、幽子さんは、まだ高校卒業したてで、世間的にはまだ若者の……」
修平君が、美久の誤解を解こうとする。
「修平君、違うの。そんなこと、美久は百も承知なのよ。分かっていて、私をおばちゃん呼ばわりしているのよ」
「そうよ。幽子は、私から見たらおばちゃんなの。考えてもみなさい。十年後……どちらが有利か。修平君には、どちらが魅力的にみえるか」
「はぁ??? ちょっと、何喧嘩売っているの? この私に対抗しようっていうの?」
以前よりも、美久から遠慮の文字が消えている気がする。
何か吹っ切れたような……抱えてていた秘密が明らかになって、心を開いた結果? え、これ悪い方向に心開いた感じ?
「十年? 一体何の話です?」
さらに首をかしげる修平君。これは、全く全然、さっぱり分かっていない。
「「ちょっと黙っていて!!」」
何にも分かっていない修平君に、私と美久の言葉が重なった。
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