第46話 何度でも言うわ。借金があるのよ
修平君が迎えに来てくれたならば、修平君の車に乗せてもらった帰って一件落着! なんて上手くいかないの。
私には借金があるのよ。
それを何とかしなければ、五匹のアイドル黒猫達が、納言の気を反らしてくれていたとしても、時也が私を再度迎えに来ないとは限らないの。
だって、借金があるんだもの。
「愚かな。まさに愚の骨頂!」
官兵衛が呆れている。
でも、仕方ないの。いっきに返すには、この方法が一番なのよ。
「納言のように株を買うとかは、私も修平君も、株の知識なんてないし。私達に株の基礎知識がなければ、官兵衛だってどうしようもないでしょ?」
「だからと言って、これは……」
官兵衛は納得いっていないようだ。
ここは、宝くじ売り場。そう、ギャンブルに頼ろうっていうのだ。
納言だって、グググッと腕をプルプルさせて人招きをして、官兵衛につなげる人物としての私を招いたのだ。
官兵衛にだって、グググッと、いつもと反対のお手々をあげれば、招けるに違いないのだ。
私の導いた、完璧な借金返済計画! 抜かりはないはずなの。
「何が、完璧な借金返済計画じゃ。我の崇高なる招きを何だと思っているのか!」
呆れる官兵衛。
官兵衛の人招き、すごいとは思うわ。崇高かどうかは知らないけれど。
でも、一回ぐらいいいじゃない。金招き……。
「まあ、まあ。物は試しじゃないですか。それに、官兵衛だって理恵子さんの借金が返済されれば、納言とのつながりが減って助かるでしょう?」
修平君にまでさとされて、官兵衛が「うむむ」と言いよどむ。
「どうしてそんなに金招きを嫌がるのよ」
「人招きこそ、招きの最高位なのじゃ」
「そんな、金招きだってすごいじゃ……あ……」
「なんじゃ?」
「できないんだ。官兵衛。納言は両方出来るのに」
「んにゃ!!! にゃ、違う!!」
そっか……最初に官兵衛は、頑なに金は招かんって言っていたものね。
これは、本格的に、出来ないんじゃないかしら?
妹の納言にできるのに、自分にできないのが、悔しいんじゃないかしら。
「失礼な! この官兵衛が納言に劣るなぞということは……」
「見たことある? 修平君?」
「官兵衛の金招きですか? いいえ。一度も。祖父母からも、そんな話は一度も聞いていないです」
「ほら。修平君ですら一度も見たことも聞いた事もないんだもの」
「どうでしょうね……」
「うぬぬぬぬ……」
私と修平君は、私の手のひらの上の小さな官兵衛を見つめる。
「分かった! 一度きりじゃぞ!!」
「一度きりで十分よ。お願い!」
今の木製の招き猫の姿では、金を招くといっても、手を逆にすることはできない。
だから、招いてもらうのは、日が暮れて猫の姿になってから。
それまで、待たなきゃいけないの。
私は、リュックの中からお菓子の本を取り出す。
この本は、納言達の元にいたときに、何か欲しいものはないかと言われて、納言達に買わせたもの。
和菓子を中心としたお菓子のレシピがたくさん載っているの。
「お菓子の本ですか」
「そうよ。だって、私、約束したもの」
修平君と約束した。
新しいスイーツのレシピを考えるって。
大切な約束、忘れるわけがない。
私は、修平のところへ帰ってくるって決めていたのだから。
「理恵子さん、ありがとうございます」
修平君がすごく嬉しそうな顔をしてくれる。
「わ、まだよ? まだ勉強し出したところなんだから。これからよ?」
そんなに喜んでもらっても、まだ私は何もしていないのだ。レシピ本読んでいるだけ。
「いえ、考えてくれるだけで嬉しいです。祖父母が亡くなってから僕は、ずっと一人でお店を守ってきました。官兵衛はいてくれても、やっぱり心細かったんだと思います。理恵子さんがそんな風にお店のことを考えてくれること、本当に心強いです」
「修平君……」
本当に、戻って来れて良かった。
やっぱり、私のいるべきところは、修平君のところでありたいと、心から思う。
「理恵子さん、好きです。ずっと側にいてください」
し、修平君?
「官兵衛とこんな風に仲良くできて、たくさん僕じゃ思ってもみなかった発想をするりえさんを、心から尊敬しています」
どうしよう。私、嬉しくって絶叫しそうだ。窓開けて叫んで良い? 好きな人に告白されたって。
「どう考えても駄目じゃろう。叫ぶな、理恵子」
「ちょっと官兵衛、黙ろうか」
いや、本気で叫ぶわけないじゃない。
物の例えだ。官兵衛よ。
「さけ……ぶ?」
ほら、何のことか分からずに修平君がキョトンとしちゃったじゃない。
「ああ、ほら、官兵衛は放っておいて、修平君?」
「は、はい」
「私も、修平君が大好き。優しくって、人のことを大切にする修平君、ずっと一緒にいてほしい」
これで、返事になったかな?
「その……もう一つ、贅沢なお願いしても良いですか?」
「何?」
「理恵子さんを恋人って思っても、迷惑じゃないですか?」
「もちろんよ」
迷惑なわけがないのだ。
だって、修平君だもの。
ジッと見つめ合った私達、はたと気づく。
ここ、宝くじ売り場付近の駐車場。
いかんいかん、修平君を襲ってキスするところだった。
「我もいるんだがの。先に帰って良いか?」
「良いわけないでしょ? ほら、官兵衛が金招きするんだから!」
「そ、そうですよ。官兵衛」
官兵衛が呆れている。
私と修平君、二人は同じくらいにワタワタと焦っていた。
しばらく、修平君とおしゃべりしたり和菓子の本を読んだりして車の中で待てば、あっさり日は暮れる。
トートバッグに入れた官兵衛が、いつもの黒猫の姿になる。
「全くもって、不本意じゃ」
ブツブツと文句を言う官兵衛。
「ほら、お願い」
官兵衛は、居住まいを正して、神妙にいつもとは逆の手をプルプルと上げ始める。
――金運招財!!
官兵衛の声が、金運を招く。
「あら、千客万来とは違うのね」
「あたりまえじゃ。金招きじゃ。て、ほれ! せっかく招いたのだから、さっさと買ってこい! 効力が切れるぞ」
「わ、そうなの? 急がなきゃ!」
私は慌てて宝くじの売り場へ官兵衛を抱っこしたまま向かう。
「どれを買えば良いのよ?」
「知らん!」
不機嫌なままの官兵衛。
相談には、少しも乗ってくれない。
仕方なしに、私はその場で目に付いた宝くじを適当に買う。
明日が当選日。期限ぎりぎりの宝くじを数枚。
「買えましたか?」
車に戻れば、修平君が聞いてくる。
「うん。一応ね」
私は、宝くじを見せながら曖昧な返事を返す。
これで、なんとか当たっていると良いのだけれど。
イマイチ、当選している感がないのよね。
ま、明日になれば、分かることだけれども。
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