第51話 スイーツどうしよう

 もう一つ、大事な約束があるの。

 そう、スイーツ作りだ。

 修平君のお魚料理に合うようなスイーツを開発するって約束したのよ。


 修平君が夕方のお弁当配達に出かけたから、私は官兵衛と二人で試行錯誤する。

 美久は、お母さんが迎えに来たから、ブツブツ言いながら帰っていった。


 美久とは違って、お淑やかで美人な美久のお母さんは、「ごめんなさいね。この子、ここに入り浸りにしてしまって」なんて謝っていた。


 なんて良いお母さん。

 病気もして一人で小さな美久を一人で育てるって大変だと思うのよ。

 だから、私も修平君も、「いえいえ、お気になさらずに」なんてつい言ってしまったから、きっと明日からも美久は昼間はお店に入り浸りだろう。

 

「でも! 修平君と理恵子を夜こそ二人きりにしたくないの!」


 そうごねる美久に、私は、「大丈夫よ。残念ながら二人きりになんないし。修平君の親戚のおじちゃんが、時々来るのよ」と、返した。もちろん、親戚のおじちゃんとは、官兵衛のこと。まるっきりの嘘ではない。


 大嘘には前科のある私の言うことに半信半疑の美久だったが、修平君の「まぁ、来ますね」の一言に、しぶしぶ納得したようだ。


 ということで、うるさいヤツがいなくなったので、スイーツに集中せねば!

 このスイーツの利益は、私のボーナスにしてもらえるので、売れるスイーツを作ることはすなわち、借金返還と甘い恋人生活へとつながるのだ。

 頑張らねば!


「季節感も大事よね」

「まぁ、寒い時期にわらび餅出されても、喜びは少ないな」

「そうよね……」


 私は、レシピ本をめくりながら考えこむ。

 修平君のシチューだって、これからの冬に合わせたメニューなのだ。

 だったら、煮物や先ほどのシチューの後に出して違和感のないメニューが良いだろう。


「お口をさっぱりさせるには、シャーベットなんか美味しいのよね」


 熱いお鍋の後にぬくぬくのコタツで食べるアイス、それは蕩けるほど美味しい。

 でも、あれって、温かい部屋でずっといるから、美味しく感じるのよね?


 このお店だとどうだろう。

 規模が小さくて回転率の高いお店。

 もちろん温かいメニューを食べているうちは、体もポカポカしてくるだろうけれど、そのあとはすぐ寒い外に向かうのだ。

 冷えたメニューで体を冷やしたまま外へ向かわすのは、お年寄りも多いのにちょっと駄目な気がする。


 それに、スイーツだけ食べるお客様もいるはずだ。

 寒い外から来て、はたしてシャーベットを食べたくなるだろうか。


「うーん。やっぱりこのお店で冬季はシャーベットは避けるべきかも」


 なら、何が良いのだろう。

 えっと……。どんなメニューならば、温かい煮物に合うのか。

 レシピ本をめくりながら考え込む。


「うーん。チョコケーキじゃ煮物に合わないよね。羊羹は……、わ、すっごい手間がかかるし大変そう……」


 そうなのよ。

 作るのが私なのだから、技術的に私が作れる範囲じゃないと無理なのよ。

 だから、このレシピ本が数ページ割いている上生菓子とか練り切りなんてものは、私に

は作れない。

 

 季節に合わせて、菊や牡丹などの花々を形どったお菓子。素敵だけれど、これはプロにお任せしたい。

 どう考えたって私の手には余りまくりだ。

 だって、素人だし。

 挑戦するにしても、もっと料理の腕前をあげてからにしたい。


「いくらくらいの菓子を作るのじゃ?」


 一緒にレシピ本を見ていた官兵衛が私のめくるページをチョイチョイと前足でちょっかいかけながら聞く。


「いくら……売る値段のこと?」

「そうじゃ。この本は納言のところからもらってきただけあって、高級菓子も多い。気をつけねば、こんな小さな食堂では場違いな値段をつけなければならないぞ」

「わ、そうね。確かにそうだわ!」


 官兵衛の言う通りだ。

 本当に気をつけないと、美味しいからって高級食材を使ってしまったら売れなくなる。


 えっと、じゃあ……このいちじくのコンポートとかは、初めから除外した方が良いのね。

 いちじく、割と高めだし。

 夏のさくらんぼ系とかは、今はないし……。


 難しい!


「どうしたものかなぁ……」


 レシピ本をパラパラめくりながら、私は悩む。

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