第3話 雇ってもらえるらしい
黒猫だから官兵衛……。
歴史の武将好きであった、官兵衛を掘り上げた職人が名付けたのだそうだ。
大好きな歴史上の名軍師黒田官兵衛→黒田官兵衛→黒だから官兵衛→黒猫の名前だから官兵衛。
代々の店主と、この『招き猫食堂』を守ってきた招き猫の像。
それが、官兵衛である。
祖父母が亡くなって急遽後を引き継ぐことになった修平君を助けてくれているのだそうだ。
代々の店主達を見守ってきた招き猫の官兵衛。店のことは、何でも知っている。
「で? どういうこと?」
「ええっとですね。官兵衛が、今日の夕方、あの崖に行けば女の子はいるから、助けて来いと言い出しまして」
「それで、あんなひと気のない崖に修平君が突然現れたのね」
「そうじゃ。修平は修平で、店を手伝ってくれる人手が欲しい。そこの娘は娘で、行くアテがなくて困っておったのであろう? それこそ利害が一致するではないか! 住み込みで働けば良い!」
まあ……そうだけれど……。
野宿、テント生活を覚悟していたから、屋根のあるところで生活できるのはありがたい。それに、ギリ法律上で成人扱いの十九歳の家出娘を雇ってもらえるなんて、とても助かる。
「官兵衛の言う通りです。僕も、この店を手伝ってくれる人手が欲しくてですね。しかし、そんなに利益は出ないので、高い給料は保証できませんし……それで、官兵衛に相談していたんですよ。そうしたら、崖に行けば、それは解決すると官兵衛が言い出したもので……で、行ってみたら、自殺しようとしている女の子がいまして、本当に驚きました」
「まあ……偽装自殺なんだけれどもね……」
私は、苦笑いする。
官兵衛と修平君の目的と状況は理解した。
「その……どうして、偽装自殺なんてしようとしていたんですか?」
修平君が、おずおずと聞いてくる。
「あ、言いたくなければ、無理にとは、申しません」
慌てて修平君が言葉をつけ足す。
いい子だな。修平君……。
「えっと……笑わない?」
「? 人の悩みを笑う趣味はありませんが?」
「安心いたせ。面白かったら、盛大に笑って福と転じてやろう」
何だと? どうして笑う気満々なのか。
とりあえず官兵衛は無視して、私は話し出す。これからお世話になるのだから、ある程度の事情は、知っておいてもらった方が良い。
「私ね、顔も見たことがない許嫁がいるの」
「そんな前時代的な……え、まさか大富豪のお嬢様とかですか?」
「そんな訳ないでしょ!」
私のこのファストファッションの塊の出で立ちを見て、どこうどう解釈したら、お嬢様かもしれないという結論になるのか、さっぱり分からない。
「そうだぞ、修平。この身なりと立ち居振る舞いで、あり得んだろう。もっと人を見る目を養え」
い、そうだけれども。もっと言い方ってものがあるでしょうが。
官兵衛、うるさい。
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