第43話
審査会後の日曜日。
俺は公園で人を待っていた。最後に残していた問題を片付けるためだ。ざわつく心を、必死に抑え込む。
「……よう」
ぶっきらぼうな言葉で金髪の男が話しかけてきた。智だ。あの喧嘩以降会っていなかったが、少しやつれたように見える。俺のせいなのかもしれないと思うと、申し訳なさで胸がいっぱいになる。
「悪いな急に」
「何の用だよ」
敵意のこもった声で智が話す。ドタバタしていたとはいえ、あれから何も連絡を取っていなかったんだ。怒っているのも無理はない。そもそも、今日来てくれたこと自体が奇跡に近いのだから。
「ごめん! 本当に悪かった!」
深々と頭を下げる。いくら彼の言動が原因だったとしても、手を出してしまったのは俺のほうだ。周りに擁護されようと、俺から謝るってのが筋ってものだろう。目の前にいるはずの彼は何も言葉を発しない。
長い沈黙の後、視界の外でため息がこぼれる。
「もういいって、顔上げろ」
上げた先で、智と目が合う。怒っていることは確かだが、声色は少しだけ丸くなっているような気がした。
「ただ一発殴らせろ。それでチャラだ」
「そんなことでいいなら」
目をつむり、両手を大きく開く。砂利を踏む音が聞こえた直後、俺の体が地面に勢いよくぶつかった。頬を震源として全身が痛むが、こんなもの彼が受けた傷に比べれば安いものだろう。
「……大丈夫か」
「あぁ」
目を開くと、智がこちらに手を差し伸べていた。その手をつかみ立ち上がる。
俺を起こすと、彼は背を向ける。そうして数歩歩いた彼は、こちらを一瞥した。
「……審査会、佳作に選ばれたんだってな」
「え……」
そのことを知っていることにも驚きだったが、今ここでそれに触れるとは思わなかった。返事が遅れる。その間に、彼は言葉を続けた。
「おめでとう。応援してるよ」
こちらの言葉を聞くこともなく、彼はそのまま歩き出す。
一人残された公園で、俺は頬の熱いメッセージを改めて嚙み締めた。
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