第14話
「お待たせー」
「うーい、んじゃ行くか」
放課後。イカちゃんが五限までだったこともあって、いつもより遅い時間となった。講義終わりに念のためと遅れることは伝えたが、返信が来ていない。朝のメッセージが送られてきたときに言っておけばよかったな。
「で、リオさんってどんな人なの?」
「あぁ、結局説明してなかったもんな」
道中も、話題はリオさんのことで持ち切りだった。それもイカちゃんのほうから積極的に聞いてくる。チラッと顔を見た程度なのに、こんなにも興味を示すなんて予想外だった。
「着いたよ」
「へー、初めて来たけどここが……」
「あれ、そうなんだ。てっきり通ってるものかと……」
「私、そんなイメージ持たれてた?」
少し照れたように彼女が笑う。
「いや、あんなにもリオさんのことについて聞いてくるからさ。そういうの好きなんだと」
「うーん、流行りのやつとかは聞くかもだけど。自分から調べて聞くわけじゃないからなぁ」
じゃあ、本当にリオさんのことが気になっただけなのだろうか。理由はよくわからないけど。
「とりあえず入ろう」
ドアノブに手をかける。何度か入った店とはいえ、やっぱりこの雰囲気には気圧されてしまう。ゆっくりとドアを開けると、中ではすでにリオさんが演奏をしていた。
「リオさーん、来ましたよー」
呼びかけるが、演奏は止まらない。よほど集中しているのだろう。視線の代わりに、すさまじい熱気が送られてくる。
「いらっしゃい、その子は?」
どうしたものかと考えあぐねていると、奥から店長がやってきた。ギターの音にかき消されないよう、必死に声を張り上げている。
「学校の友達です。リオさんに会ってみたいっていう子で」
「井神茉奈です! よろしくお願いします」
そんな会話をしていると演奏が止まる。大声で話すもんだから気付いたのだろう。こちらに視線を向けるリオさんだったが、その表情はどこか険しく見えた。
「……そいつは?」
「井神茉奈。学校の友達です」
「あっそ」
やっぱり様子がおかしい。何かあったことは間違いない。
「で、今日はどうしたんですか?」
「進捗、どう?」
「そうですね……まだなんとも」
ある程度土台は作ったつもりだ。けど、まだ見せられる段階にまで達したわけじゃない。こう答えておくのが無難だろう。
「んじゃ、出来たら教えて。今日は帰るから」
「え、ちょ……もうですか?」
さすがに動揺を隠せなかった。いつもなら、何もなくたってすぐ帰るなんてことはなかったのに。引き止めようとしたが、彼女は帰り支度を着々と進めていく。
「あ、あの! ちょっとだけ話だけでも……せっかく友達だって来てくれたんだし」
「……誰? アタシ聞いてないんだけど」
「一応連絡はしたんですけど……」
「いや、知らないし」
「本当にどうしたんですか? 今日なんかおかしいですよ」
「…………」
投げかけた問いに答えは返ってこなかった。押し黙ったまま、リオさんはライブハウスを後にしてしまう。
「えっと、なんかごめん」
「ううん、全然! 突然押し掛けたのは私のほうだし」
イカちゃんが来ることを知らなかったんだ。彼女のせいではない。
にしても、あんなにも機嫌が悪いリオさんは初めてだ。朝会ったときは普段通りだったことを考えるに、その後会った人と何かがあったことは間違いない。
「店長、何か知ってませんか?」
「んー、知ってはいるけど……」
「けど?」
「タカちには言うなって言われてるんだよねぇ、ごめん!」
店長が大げさに手を合わせて謝罪する。俺には隠したいってどういうことだろうか。
「とりあえず、茉奈ちゃんだっけ? 俺からも謝らせて。また日を改めて紹介するから!」
「は、はい……」
店長がいつも通りのテンションでイカちゃんに話しかける。イカちゃんはすっかり委縮してしまっていたが。普段ならこうなるだろうと笑って見れる光景も、今日に限っては違和感を抱いてしまった。
「えっと、じゃあ俺たちも今日は帰りますね」
「うん、ホンットーに今日はごめん! 埋め合わせはするから!」
再度、店長が言う。さっきと言っていること自体は何一つ変わっていないような気もするけど。彼なりの誠意ってことか。その言葉を受け止め、俺たちは店を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます