第38話
次の日。
俺は学校のパソコンとにらめっこしていた。提出期限は今日の午後五時。時計の針はその十分前を指し示している。あまり時間は残されていない。とはいえ、すでに提出フォルダ内に保存しているから参加権は得た。これだけでも十分である。大きな修正こそできないものの、最後まであがくことは無駄じゃないはずだ。
俺の他にも、提出間際で作業に打ち込んでいるクラスメイトが大勢いる。彼らは特に言葉を発さないものの、同じように目を血眼にして確認作業に勤しんでいた。
そして。
「はーい、五時だぞー」
その様子を部屋の隅で見ていた担任が口を開く。その言葉と同時に、皆が皆憑き物が取れたように晴れやかな表情を浮かべた。中には解放されたことを労いあう生徒もいる。今の俺がすることのできない光景だ。少しうらやましい。
とにかく、出すものは出したし時間は過ぎた。これ以上俺がここにいる理由はない。これまで気を張り続けた生活をしてきたのだから、ここいらで少し休んでもいいだろう。
「ちゃんと出したのか?」
後ろから声を掛けられる。佐伯だった。彼は不機嫌そうな顔をしているが、その言葉に前までの棘はない。
「あぁ、出したよ」
「そうか」
一語一語、互いの様子を探りあうような会話。正直苦手だ。用がないのならすぐにでも帰りたいのだけど……。佐伯は何を言うまでもなく俺を見ている。
「なぁ、帰っていいか? ちょっと疲れてるんだよ」
「あぁ……」
変な奴だ。一体何をしたかったのだろうか。てっきり嫌味でも言われるのかと思っていたけど、そういうわけでもないみたいだし。
「……お疲れ」
教室を出る刹那。聞こえるかどうかの小さい声だったが、確かに佐伯の声だ。もしかして、それを言いたいために声をかけたのか? 理由は定かではないが、問いただしても奴は絶対に答えないだろう。
その声を確かに受け止め、俺はもう一歩足を進めるのだった。
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