第1章

第1話

「なぁ孝明たかあき、聞いてっか?」

「ん? あー……」

 キンキンに冷え切った部屋の中で、コントローラーを巧みに操作する。

これが藤原ふじわら孝明たかあき二十歳の学生生活だ。

隣で智がなんか言っているような気もするが、指の動きに意識を取られているせいで頭に入ってこない。すでに十回はクリアしたであろうRPGをいまだにやり続けているのは、金がないくせにバイトをしないからだろう。親の仕送りで最低限の生活が保障されているとはいえ、学校にも行かずにただボーっとする自堕落な生活。当事者としては天国のような状態だが、真面目に通っている同級生に合わせる顔がない。

「おいっ!」

「うわぁっ!?」

 不意を突いた大声に、俺は思わずコントローラーを投げ捨ててしまう。耳元で叫びやがったのか、脳が激しく揺れているような感覚が俺を襲った。

「いきなり叫ぶなよ! 鼓膜破れたかと思ったわ!」

「お前が全然話を聞かねえせいだろうが! そろそろ予定あるから帰ってくれって!」

来栖くるすさとし。専門で同じ学科に通うクラスメイトのようなもの……なのだが、この通りお上品な人間ではない。金髪にスカジャンと見た目もかなり派手であるため、こいつと歩いていて職質を受けた回数も一度や二度では済まない。フォローするべき点があるとすれば、多少口が悪いだけで暴力は振るわないくらいだろう。まぁ、同じようにサボっている身としてはとやかく言えないが。

「あー、悪い悪い。んじゃま、お邪魔虫は帰りますよっと」

「何おっさんみたいなこと言ってんだ。老けるぞ」

「うっせ」

 軽口を叩きあいながら、俺は立ち上がる。何があるのかは知らないが、家主に出て行けと言われて居座るような度胸は俺にない。散らかしていた荷物をまとめ、俺は奴の家を出た。

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