第30話
「さて……」
焼肉の件から一夜明けて、俺は自室のパソコンとにらめっこしていた。
バンドの件もそうだが、俺がやるべきことはもう一つ。審査会に向けての作品制作だ。夏休みが明けてしまった今、残された時間はあまりない。このペースじゃ、提出さえままならないだろう。佐伯との約束だってある。今まで溜まった不信感を取り除くには、ここで結果を残すしかない。一つがうまく進んでいるからと言って、油断はできないのだが……。
「ダメだ、思いつかん……」
誰もいない部屋に、空しい独り言だけが響く。
全体像を見直したうえで、今の自分の文体で書き進む。このスタイルを確立してから、確かに筆は進むようなった。だが、それは納得のいくものを書けるというわけではない。書いては消しての作業を繰り返し続ける。完全に三歩進んで二歩下がる状態だ。楽曲のこともあるから、あまり時間はかけれないのだけど……。
「……あ」
お腹が鳴る。そういえば、昨日の焼肉から何も食べていない。とはいえ時刻は八時過ぎ。今から朝食を用意していては遅刻してしまう。作業の保存とか、やることもまだ残っているし。少し悩んだが荷物の用意を始める。別に一食くらい抜いても死にやしない。
最低限の荷物だけを持って、俺は家を出る。
それにしても今日は格段に暑い。ストリートに赴くときは大抵が日の沈みかけた時間なだけに、照り付ける日差しに辟易としてしまう。夏休みが明けたからといって、別に夏が終わるわけじゃない。第一まだ八月だし。本当ならこんな暑い日に外に出るなんてまっぴらごめんなのだが、講義がある以上そんなことは言ってられないのだ。
額に汗をにじませながら、俺は灼熱の街を進んでいった。
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