エピローグ
エピローグ
審査会とライブから一か月。秋なんてものを置き去りにしたかのように、街はすっかり冷えこんでいた。冬服を着込んだ人が街を闊歩する。
信也さんとまつりさんが元のバンドに戻っていったことで、ライブハウスも随分と静かになった。まぁ、それは俺が営業時間に店を訪れないからなんだけど。そんな俺に、とうとうしびれを切らしたのだろう。店長が「一回は観てくれ!」と、俺にチケットを渡してくれた。それも二枚分。イカちゃんを怖がらせたときのお詫びと言っていたが、きっとそれは半分建前だろう。実際、チケットがなくても来い! って言われちゃったし。
「なんだかドキドキするねー」
「確かに。ライブ前のこの瞬間が一番高まるんだよな」
イカちゃんがコートを脱ぎながら席に着く。ライブに行ったことがないって言ってたし、緊張しきっているのだろう。会場内をキョロキョロと見回している。
彼女には本当に迷惑をかけっぱなしだった。誘ったときもこれで罪滅ぼしになるとは思えないけど……と声をかけたが、即座に了承してくれた。彼女の器の大きさは見習わなければならない。
俺たちがいるのは二階の最前列。店長が身内特権を使って確保してくれた……らしい。イカちゃんもそうだが、これには俺もテンションが上がってしまった。
「にしても、お客さんいっぱいだね」
「だね。人気があるのは知ってたけど、正直想像以上だよ」
俺もリオさんが会場で歌う生ライブを観るのは初めてだ。これまではストリートだったり、映像越しだったり……あとは音合わせのときか? とにかく、彼女の本来の演奏ってものを俺はまだ知らないかもしれない。だから、イカちゃんには言えないくらい緊張してる。観客の話し声とかが気にならないくらい、心臓の音が響いてうるさい。
「わああああぁっ!」
ギターのチューニングが始まる。軽く弾かれた弦の音に、観客は期待をこめた声援を送った。暗くてハッキリとはわからないが、リオさんらしきシルエットも見える。この頃になると、俺たちの会話はなくなっていた。いつ本番が来ても問題ない。
『本日は……』
ライブ前のアナウンスが流れ始める。いよいよ開演だ。
胸の高鳴りを抑えきれない。口から感情の波が今にも溢れ出しそうだ。そして……。
『お待たせ』
「リオー!」「リオ様―!」
「Fooooo!」
マイク越しにリオさんの声が響き渡ると、観客のボルテージも一気に最高潮へと達する。雷鳴のように荒々しいギターの音とともに、彼女の饗宴が幕を開けた。
『それじゃいくよ。ネバーロールの新曲……』
始まりを告げる一言。その後に彼女と視線が合う。マイクを掴んでいる手とは逆の手で俺を指さした。そして、俺たちの結晶を声高らかに叫ぶ。
『リフレイン・スター』
リフレイン・スター カラザ @karaza0210
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます