第3話
ストリートの中心地。俺は通っている専門学校の授業をサボり、目の前のライブに釘付けとなっていた。
「センキュ! ……つっても、タカしかいねえけどな」
「タカって……なんかもう常連っすね」
「いいだろー別に。いちいち藤原孝明さんなんてフルで呼んでられるかって。それに一週間毎日通ってるヤツが常連以外のなんだってんだよ」
さらっと俺の本名を言いながら、目の前の女性は白い歯を見せて笑う。その姿にスター性を感じてしまったから通っているなんてことは、とてもじゃないが本人には言えない。
渡井リオ。誰がどう見てもミュージシャンと答えるような風貌の彼女は、日の暮れた時間からほぼ毎日のようにライブを行っている……のだが、他のバンドメンバーがいない。昨日知ったことなのだが、彼女曰く「解散しちまったからストリートに戻ってきた」らしい。
「んで、今日も見つからなかったんですか?」
「見つからないって何が」
「メンバーですよ、メンバー。ストリートとはいえ、一人でやるのにも限界があるでしょう?」
俺の問いかけに、なぜかリオさんはため息をつく。別に変なことを言ったつもりはないんだけど。
「あのなぁ、何度も言ってるだろ? 別にメンバーがいなくてもライブはできるんだ。今だってミニライブのセトリ一回分くらいは歌い上げたんだぞ?」
「って言っても、このストリートでソロライブをやってるのなんて、リオさんくらいしか見たことがないですよ。それにバンドって普通グループを組むもんじゃないですか」
「ならいいじゃん。そっちのほうが目立つし。それに、別にソロのアーティストだっているんだぞ?」
そそくさと後片付けを始めながらリオさんはつぶやく。ソロアーティストはいるだろうけど、その人たちってポップス寄りなんじゃないだろうか。この型にハマらない感じは確かにロックなんだけどなぁ……。
「それよりいいのかよ。A専って、出席率大事じゃねーの?」
「……露骨に話逸らしてません?」
「うっせ」
そう言いながら、リオさんは軽く笑う。自分の都合が悪くなると、すぐにこっちの話を持ち出してくる。これももう慣れたものだ。だけどなんでだろう。その笑いは、どこか憂いのようなものが見え隠れしていた。
「とにかくだ。アタシはアタシの好きなようにやる。それだけだよ」
そう言って、彼女は相棒を入れたギターケースを肩にかける。
「んじゃ、また聴きたくなったら来てくれよ」
「あ、ちょっと」
何かを言う前に、彼女は軽快な足取りで夕暮れの雑踏へと消えていった。
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