第23話 兄妹水入らず
「さて、どうしようかな?」
アパートにて、久々に一人の時間を持った俺はそう呟いた。
ちなみにフェニとパープルはテイマーギルドに預けてある。
フェニは従魔登録後の検査があったり、パープルは本人が今は動きたくないと誇示したからだ。
「思ったよりも早くここまで来たというのもあるけど、思ったよりも準備ができなかったともいう感じか?」
予想外のところでレアアイテムの要件を満たし二次試験を突破したのだが、肝心の三次試験に進むための条件を一つ満たしていない。
それは――
「上流階級国民三名の推薦状か……」
これは、一定以上の税金を納めている貴族か商人、他には各ギルドマスターが該当する。
俺が三次試験に進むためには、この推薦が必須になる。
この王都に来てからというもの、冒険者活動は頑張っていたのだが、人脈については一切触れてこなかった。
当然、貴族や商人に対する伝手もなければ、ギルドマスターとも知り合いですらない。
通常、国家冒険者資格を受験する場合、事前に依頼を通じて上流階級の人間に自分を売り込み、推薦状を書いてもらうようにするものらしい。
ところが、俺は冒険者になって日が浅いので、そういった根回しができていなかった。
「このままだと期限切れになってしまう。どうにかしないと……」
俺はどうすれば推薦状をもらえるか考え続けるのだった。
「お久しぶりですね、兄さん」
数日が経ち、俺は久しぶりにセリアと会った。
お洒落な店が立ち並ぶ商業区の噴水前で待ち合わせをしていたのだが、今日の彼女は随分と着飾った格好をしていた。
街に住んでいたころ、この服装を見たことがないので、こちらに来てから買ったものだろう。
どうやら、セリアは順調に王都に順応しているようだ。
「ああ、久しぶり。勉強はどうだ? 頑張っているか?」
そんな彼女に対し、俺は学校生活について軽く探りを入れてみた。
「ええ、順調ですよ。この前行われた試験でも学年一位になりましたから」
「それは凄いな! 俺も鼻が高いよ」
まるで自分のことのように嬉しくて、思わず笑みが浮かんでしまう。
「あ、ありがとうございます」
セリアは照れているのかプイと顔を逸らす。俺はそんな彼女の頭をそっと撫でた。
俺が頭を撫でるのを止めて離れると、セリアはじっと俺を見つめてきた。
「まあ……兄さんのご活躍にはまったくかないませんけどね」
「あー、セリアも知ってるんだ?」
「それはそうですよ。何せこの国で二人目の最強種をテイムした人物なんですから」
俺がフェニックスをテイムしたという噂はあっという間に国中に広がっているらしく、セリアもその噂を学校で耳にしたのだという。
幸いなことに、俺自身の顔は割れていないので、今はこうして外を出歩いているのだが、いきなり色んな人から注目を浴びてしまい戸惑っているところだ。
「それで、その噂のフェニックスというのは?」
セリアはキョロキョロするとフェニの姿を探す。
「フェニなら今はテイマーギルドだな。生態調査だったり、危険性はないかの確認だ」
もし連れて歩いていたら周囲に注目されてこうして話すこともできなかっただろう。
「そうですか……残念です」
セリアは声を落とすと落ち込んだ表情を見せた。
「まあ、その内どこかで会わせてやるよ。フェニは可愛いぞ」
街に住んでいたころ、セリアは可愛い生き物が好きだったので絶対にフェニを気に入ると思う。
「はい、楽しみにしていますね、兄さん」
彼女がニコリと微笑むのを見ると、俺たちは久しぶりに兄妹水入らずで楽しむため、王都を歩き始めた。
「こちらの店が人気だと友だちから聞いたんです」
セリアに案内されるままに店へと入る。ここは学生に人気の店らしく、周囲に座っているのは俺たちくらいの年齢の人間が多い。
「うーん、どれにしましょう?」
眉根を寄せてメニューを見るセリアを俺は微笑ましい目で見る。
「好きな物を好きなだけ頼んでもいいんだぞ」
「それは……流石に申し訳ないので、こちらのケーキセットにします」
セリアは遠慮すると、少し悩んだ末に注文を決めた。
食事をしながらセリアの学校生活について詳しく聞いて行く。
慣れない王都での暮らしに最初は苦労したが、同室の娘に色々教えてもらったこと。
奨学生と貴族の間に若干嫌な空気が生じていること。
授業内容が高度でついて行くのが大変なこと。
今度貴族の友人の家のパーティーに参加すること。
「ちょっと待て、それってドレスいるんじゃないのか?」
「あっ……まあ、でも別に制服でも大丈夫らしいので……」
そこまで話して、セリアは目を逸らした。
「まだ間に合うよな? だったら、この金で買いなさい」
俺はセリアの手を取ると、数枚の金貨を握らせる。
セリアはそっと自分の手を覗き込むと、
「こんな大金受け取れません!」
「いいから、それだけあればドレスを買えるだろ?」
「それは……買えますけど……私、兄さんに甘えてばかりは嫌なんです!」
王都への留学の件や、今回のドレスの件などでセリアは俺に対し負い目を感じているのだろう。
だけど、俺の命のために王都留学を諦めたり、倒れている間も献身的に世話をしてくれたりした彼女にはまだまだ恩を返していないと思っている。
「俺は父さんの代わりに王都に来ている。もし父さんがここにいたら、同じことをするはずだ。お前は大切な妹なんだからな」
「兄さん……」
セリアは拳をギュッと握ると潤んだ瞳で俺を見る。
しばらく見つめ合っていると……。
「もう一つ、ワガママを言ってもよろしいでしょうか?」
「ああ、何でも聞いてやる」
するとセリアは柔らかい笑顔を俺に向ける。
「これから、ドレスを選ぶのに付き合ってください」
「ありがとうございます、兄さん。お蔭で素敵なドレスでパーティーに出ることができそうです」
自分だけが制服でパーティーに参加することを気にしていたのか、セリアは晴れ晴れとした笑顔を浮かべている。
俺は、彼女にドレスを贈ることができ、内心でほっとしていた。
「兄さんはいつも私のことを助けてくれます。王都の留学の件もそうですし、今回の件も……」
セリアは真剣な目で俺を見てきた。
「だからこそ、私も兄さんの力になりたいんです。今日一日何かに悩んでいるように見えました。私に聞かせてもらえないでしょうか?」
セリアと待ち合わせをしている際中や、彼女が他のことをしている間、ふと俺は心ここにあらずの状態になっていた。彼女はそれに気付いていたようだ。
「仕事のことだ、聞いても面白くないことだぞ?」
「兄さんのことなら何でも知りたいので」
セリアの言葉に、俺は三次試験に進むために推薦人が必要な話をするのだった。
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