第7話 ハーブの群生地
いつものように森の中を歩く。
木の葉をかき分け、周囲を見回し、ハーブが生えていないか探しながらなので時間が掛かる。
森に入るようになってから数週間が経ち、随分と探索にも慣れてきた。
そんな中、今日は肩に違和感を覚えると、意識がついついそちらに向かってしまう。
『…………』
それが視線を向けると、首をこちらへと向ける。
俺の肩には紫色の身体を持つマジックワーム――パープルが乗っていたからだ。
ある程度森の奥に入ったら解放しようと思っていたのだが、パープルはそれが解るのか俺から離れるのを嫌がり、腕を伝ってよじ登ってきてとうとう肩におさまってしまった。
先程聞こえた女神に似た女性の『従魔契約』という言葉が頭をよぎる。
そのまま意味を汲み取ると、俺はパープルを使役しているということになりそうだ。
ヒヨコの時にはこのような現象が起きなかったことから、何かしら条件があると思われる。
可能性として考えられるのは、モンスターであること、後は名前を付ける。もしくはその両方といったところだろう。
いずれにせよ、現状でどれが正解か判断がつかないし、パープルは肩にどっしりとしがみ付いて離れないので放置するしかない。
そんなわけで、奇妙な同行者が増えても俺がやることは変わらない。セリアが王都に留学できるよう、今日もハーブを探さなければならず……。
――サワサワ――
「ん?」
パープルの口から糸が出て俺の頬を撫でる。
「何する、くすぐったいだろ?」
確かな意思をもつパープルに俺が声を掛けると、パープルは首を振り、糸を伸ばした。
言葉こそ発していないものの、従魔契約をしているからだろうか?
おぼろげに意思が伝わってくる。どうやら、そちらの方向に何かがあるようだ。
「うーん、ちょっと足場が悪いけど……」
慎重に歩けば大丈夫と判断し、普段は分け入って行かない方向に俺が進むと……。
「えっ?」
そこには十枚近いハーブが生っていた。
「こんなにたくさん生えているの初めて見たぞ」
これまでは歩きやすい範囲でしかハーブを探していなかったが、少し森に深く入っただけでこんなにあっさりと見つかるとは……。
「この場所はメモしておいた方がよさそうだ」
ハーブの群生地には時間を置けばまたハーブが生える可能性が高い。冒険者ギルドの受付の女性も言っていた。
俺は喜んでハーブを摘みとる。この群生地だけで数日分の稼ぎを確保できたからだ。
「よし、摘み残しはないな?」
ハーブの収集を終えると周囲を確認する。そこでふと、肩に乗っているパープルの存在を思い出した。
「マジックワームの好物はハーブで、パープルにはまだハーブしか食べさせたことがない。さらに、さっき流れてきた意思のようなもの……偶然か?」
たった一回だけで結論付けるわけにはいかない。だが、まったくの偶然と片付けるには見過すこともできない。
「お前、もう一度同じことできるか?」
俺はパープルをじっと見ると、糸を操り別な方向に首を動かした。
「……あっちか、相変わらず歩き辛そうな場所だけど、その分人が入ってない可能性は高いか?」
俺はパープルを信じると、先へと進むのだった。
「今日はちょっと、多めにハーブを納めたいんですけど大丈夫でしょうか?」
冒険者ギルドに戻り、いつも買い取りをしてくれる受付の女性に声を掛ける。
「はい、大丈夫ですよ。ポーションが足りないので、ハーブの在庫はありませんから」
受付の女性の了承を得ると、俺は鞄にしまっておいたハーブを取り出した。
受付の女性は俺がカウンターに並べたハーブを見ると唖然とした表情を浮かべた。
「しょ、少々お待ちください。今、数えますから」
慌ててハーブの枚数を数えていく。
「全部で……五十三枚です。間違いありませんか?」
彼女は数え間違いがないか、俺に確認してきた。
「ええ、あってますよ」
「えっと、それではこちらが報酬になります」
彼女はそう言うと、トレイに報酬が入った袋を乗せた。
普段より重い、目にすることのない硬貨も入っている。俺は思わぬ大金に手が震えそうになるのだが、それを極力周囲に見せないようにしながら懐にしまい込んだ。
「それにしても……クラウスさん、まだ冒険者になって日が浅いのに凄いですね?」
受付の女性が話し掛けてきた。いつもは事務的なやり取りなので珍しいこともあったものだ。
「たまたま、群生地を発見しただけです」
「なるほど……。ハーブは余程目端の利く者でなければ中々見つからないものなんです。もしかすると、クラウスさんはスカウトの才能もあるかもしれませんね?」
実際のところ、その才能があるのは俺ではなくパープルだ。
パープルが次々にハーブの群生地を発見するので、これだけの量のハーブを、短時間で収集することができたのだ。
パープルは今、袋の中で眠っている。収集したハーブをたらふく食べたからか眠気が押し寄せたようだ。
「いや、俺なんてまだ冒険者のこともよくわかってないですし、そんな……」
俺は軽く笑って誤魔化し手を振っていると……。
「確かに、いまだにそんな装備に身を包んで、パーティーも組めないようなやつじゃたかが知れているしな」
依頼を終えて帰ってきたのか、ジークがいた。ジークがいつから俺と受付の女性の話を聞いていたのかわからないが、ニヤニヤと笑っている。
「そんなに冒険者の心得を知りたいなら俺らと呑みに行くか? たっぷりと教えてやるからよぉ」
その言葉に、背筋を冷たいものが走る。完全にたかるつもりの発言だとわかったからだ。
この金はセリアが王都に留学するのに必要なもの。たとえ硬貨一枚たりとも無駄にしたくない。
俺がどうやってこの場を切り抜けようかと思っていると……。
「また、ジークさん。新人さんに絡まないでください」
受付の女性が咎めるような目をする。彼女は俺に視線で「いいから、行ってください」と指示をすると、俺はその場から立ち去る。
受付の女性とジークが話すのを尻目に外に出た。
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