第57話 実家からの手紙

『ピィー』


 フェニは鳴き声を上げると立ち上がり俺に顔を向ける。


 小屋のドアを開けるととてとてと歩き外に出てきた。


『ピピイ!』


 何かの合図のような意図的な鳴き声を上げると、フェニの身体に変化が起きた。


 身体がもこもこと動き、羽毛の中から黄色い毛玉が次々と飛び出してきたのだ。


『『『『『『『『『『『ぴよぴよぴよぴよぴよぴよ』』』』』』』』』』


 飛び出してきたのはひよこで、羽毛から出て地面に降りるとフェニの足元にすり寄った。


「小屋の掃除をするから、ちょっと離れたところにいてくれ」


『ピーイッ!』


 俺が指示をするとフェニはひよこを連れて庭へと向かう。


 ひよこたちが生まれてから一週間、黄色の毛並みも整ってきて全員健康状態は良好で元気に走り回っている。


 フェニはというと、保護者としての自覚が芽生えたのか、はぐれたひよこがいたら他のひよこと合流させたり、茂みに立ち入ろうとするひよこには『ピィ!』と鳴いて戻ってくるように言いつけている。


 すっかり、ひよこの面倒をみることが定着したようだ。


 その一方で、パープルとロックにも変化がみられた。


『………#』


『………(礼)』


 フェニが沢山の子分を手に入れことが羨ましかったのか、パープルがロックの面倒を見るようになったのだ。


 ロックでは越えられない階段を糸で吊り上げて運んでやったり、一緒に庭の雑草を刈ったりしている。


 ロックも、初対面で恐怖心が刷り込まれしまったフェニよりはパープルの方が優しいと思ったのか、最初は怯えていたが今では従順で、パープルの指示を聞くようになった。


 従魔三匹に対する信頼があるので、安心して目を離すことができる。


 しばらくの間、小屋の掃除に没頭しているとセリアが現れた。


「兄さん、今そこでフェニちゃんたちを見たんですけど、何ですかあの可愛さ!」


 学校帰りに屋敷に立ち寄ったので制服を着ている。試験休みが終わってから顔を出していないので実に一週間ぶりになるか?


「フェニちゃんの羽根から顔を出す仕草も、フェニちゃんにまとわりついて鳴き声を出す仕草も、大事そうにひよこたちを羽根の中に入れて守るフェニちゃんも、いつまでも見ていたいくらい可愛いです」


 セリアは興奮気味に自分が今見てきたことを俺に話す。


 確かに、動物同士の触れ合いと言うのはいつまでも見ていることができるのだが、ふと油断していると予定していたことが終わらず時間だけが経過してしまう。


「ロックちゃんとパープルちゃんも仲が良さそうですし、本当に見ていて癒されますよ」


 セリアは頬に手を当てるとうっとりとした様子で庭を見ていた。


 当初、ロックが加わったことで従魔三匹の間に軋轢ができなかと懸念していたのだが、それぞれが最善の選択をしたようで今のところ争うような姿は見られない。俺としてもホッとしている部分がある。


「そういえばロックなんだけど、あれから順調に色々研究が進んでいるぞ」


 セリアは小屋に入ってきて掃除を手伝いながら俺の話を聞く。


「何種類かの鉱石を砂にしてみて、ロックに食べさせてみたんだけど、いずれも後日、丸い塊になって排出された」


 ロックがどの砂を気にいるのかについても調べてみたが、今のところレインボーバタフライの鱗粉が一番のお気に入りのようで、基本的には希少な鉱石であるほど喜ぶ傾向に見える。


「排出は基本一日に一回か二回。食べた物を数日後に吐き出す感じだな」


 一度に表面に定着させることができないのか、大部分は排出してしまうのだが、少しずつ身体が大きくなってきてはいるようだ。


「ロックは鉱石を身体に取り込んでその魔力を吸収しているらしくてな、排出された後のものは魔力がなくなってるそうだよ」


 これがどのように使えるかわからないが、今後の利用方法については専門家に聞いてみるのが一番だろう。


 俺はそういうとロックが輩出した虹色の宝玉をセリアに見せた。


「見ている間に色合いが変化してとても綺麗。こんな宝玉見たことありません」


 セリアも女の子だけあってか綺麗な物を好む。この宝玉はレインボーバタフライの鱗粉とプチゴーレムの排出が揃わなければ生み出せないので今のところ俺しか持っていない。


「一つやろうか?」


 そこまで欲しがっているのならばと、俺はセリアにプレゼントしようと提案する。


「こ、こんな高価な物受け取れませんよ!?」


「希少なのかもしれないけど、パープルとロックが普通にどんどん作っちゃうからな」


 セリアに一つ渡したとしても手元に数個残っているし、今後も生産されていく。


「売るのはまずいかもしれないけど、人に見せないでくれるならセリアが持っていても問題ない」


 彼女はロックの秘密も知っているし、今更秘密の一つが増えたところで構わない。


 これまで一緒にすごす中で、セリアがこのような表情を浮かべるのをみたことがない。そこまで欲しがっているのなら、兄としてプレゼントしたいと考えるのは当然だろう。


「じゃ、じゃあ……一つもらいます。いいかな? パープルちゃん、ロックちゃん?」


 セリアはおそるおそる俺の手から宝玉を摘まむと、パープルとロックにも許可を取った。


『…………♪』


『…………(良)』


 パープルは羽根を動かし返事をし、ロックはサムズアップしてみせる。


 二匹もセリアのことが大好きなので当然の答えだ。


「うわぁ、本当に綺麗です。首飾りにしてずっと身に着けましょうかね」


 宝玉を空にかざし眩しそうに見るセリア。とても幸せそうな顔をしているので、俺は贈ってよかったと思った。


 しばらくの間セリアは宝玉を見ていると、


「そうだ、兄さん。今日来たのは実は他に用事があったんです」


 彼女は封筒を差し出してきた。


 受け取るとセリアは首を縦に振り読むことを促す。


『ピィ』


『………&』


『………(興)』


 三匹も集まり手紙を覗き込んでくる。俺は手紙を読み終えると溜息を吐いた。


「なるほど、父さんと母さんが王都に来るんだな?」


「ええ、おもてなししなければなりませんね」


 手紙の内容を確認すると、セリアはそう言葉を告げるのだった。

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