第78話 ルシアと買い物
「それにしても、最短の期日で国家冒険者になったかと思えば、次は屋敷を構えてパーティーだなんて、クラウス君って本当に有望だよね?」
道を歩きながらルシアは俺の顔を覗き込み評価してくる。
飾らず気安く話し掛けてきてくれるのは俺にとって逆にありがたい。
「それもこれも全部フェニやパープル、他の人たちのお蔭だけどな」
俺はたまたま運よく女神ミューズから力を与えられただけにすぎない。
元々力を与えられる予定だった人物ならば、もっと何かを成し遂げていたはずだ。
「うーん」
ところが、そんな俺のそんな回答があまり気に召さなかったのか、ルシアは口をすぼめるとうなり声を上げる。
「どうかしたか?」
その様子が気になり俺は彼女に聞いてみる。
「クラウス君のそれって謙虚なのか、自信がないからのかわからないんだよねぇ?」
紫の瞳が真っすぐ俺を見る。普段のからかうような表情と違い真剣だ。
「自信もなにも……」
一瞬、そんなルシアに気圧されて言い淀んでいると……。
「謙虚も度をすぎれば嫌みだし、自信がないわりには行動が大胆だから、見ていて心配になるよ」
ルシアは指を立てながら言葉を続ける。
「少なくとも、私たちアカデミーの生徒は全員、君に命を救ってもらっている。感謝もしているし尊敬だってしているんだよ?」
ルシアは言葉を続けた。
「そんな君が自虐的だと、こっちもどう接していいかわかんないよ!」
ルシアの言葉に衝撃を受ける。
確かに、俺はこれまで自分をあまり評価しないように抑えていた節がある。彼女はそんな俺を諫めてくれた。
「『俺は凄いんだから全員敬え』くらい言ってもいいよ?」
「流石にそれは……」
ルシアは冗談交じりに言うが、内心ではそれに近い態度をとって欲しいのだろう。忠告はおしまいとばかりに笑顔に戻るルシア。
「ところで、フェニちゃんやパープルちゃんにお土産買いたいんだけど、何がいいかな?」
話題を他に変えてきた。
道の両側にある露店を見てルシアは二匹への土産で頭を悩ませる。
ここを抜けると商業区を出てしまうので、豊富な品揃えの中から選ぶなら今と判断したらしい。
「パープルはハーブがあれば喜ぶし、フェニはわりと何でも食うからな……」
基本的に二匹とも雑食だ。パープルに至っては捕獲した小モンスターをそのまま食べていたりもする。
「ふーん、そうなんだ?」
ルシアはアゴに手をあて悩む素振りを見せると……。
「決めた。ボールを買おう!」
「どうしてボールを?」
「ボールならパープルちゃんたちと遊べるかなと思って」
屋敷を買って以来、従魔の三匹には敷地内を自由に動き回らせていたが、遊ぶにしても遊具を使う発想がなかったので盲点だった。
「うん、それは確かにいいかもしれない」
「でしょ!」
俺の言葉にルシアは嬉しそうな声を出しながらボールを購入するのだった。
「ただいま」
ルシアの実家から俺の家まで馬車を利用して一時間。少し寄り道をしてしまったが概ね予定通りに家に着いた。
「お帰りなさい、兄さん」
帰宅していたのかセリアが俺を出迎える。
「お客様ですか……。あら?」
セリアは俺の後ろにいるルシアを見る。
「あなたは……以前の?」
「ああ、ルシアのことも知ってるのか?」
「セリアちゃんだよね? クラウス君の妹だって?」
セリアに確認をしていると、ルシアが妹に話し掛けた。
「ロレインから話は聞いているよ。デビュタントの時は大変だったね」
「いえ、あの時は本当にありがとうございました」
何でも、デビュタントの際に貴族とその取り巻きから嫌がらせをされていたのだが、それを三人に助けてもらったのだという。
「いいよいいよ、メリッサが我慢できずにやったことだし」
弱い者いじめを気に入らないメリッサが咎めたのだという。
「それで、ルシアさんがどうしておうちに?」
セリアは首を傾げ理由を訊ねてきた。
「例のパーティーについて、レブラントさんから取り仕切る人を紹介してもらったけどルシアの実家だったんだ」
「そそ、それで私が早速下見に来たってわけ」
俺とルシアの説明にセリアは納得する。
「なるほど、そういうことでしたか。こんなところに立たせてしまい申し訳ありません。応接室にどうぞ」
セリアはそう言うと自分はキッチンへと向かう。お茶を淹れに行ったのだろう。
「そこが応接室だから、中で待っていてもらえるか?」
屋敷に入ってすぐの場所にあるドアを指差す。
「クラウス君は?」
一緒に部屋に入らないのかと首を傾げるルシアに、
「フェニやパープルを探してこようかと思う」
せっかく来てくれたのだから、フェニやパープルもルシアに会いたいだろう。俺は二匹を探すことにした。
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