第54話 ロックの可能性

「それじゃあ、三日間お疲れさまでした」


 係員さんに挨拶をすると、てのひらの上のロックも手を振って見せる。


 身体にはキラキラと赤い粒が混ざっていた。


「こちらこそありがとうございます。まさか、ゴーレムの食事方法が砂浴びとは思いませんでした! これは、新たな発見ですよ!」


 数日ロックを観察してわかったのだが、ゴーレムにとっては砂浴びこそが食事のようだ。


 全身に付着させた砂や金属を表面に定着させ、一緒に取り込んでしまった砂は後から廃棄する。


 長い年月をかけて少しずつ成長していくのがゴーレムの生態なのではないかと、係員さんは自分の推測を述べた。


 その検証の為にスカーレットダイヤの原石を砕いて与えてみたところ、見事に表面に定着させた。今のロックはキラキラと輝いていてお洒落度が増している。


 人見知りをするロックだが、数日一緒に過ごしたことで係員さんに懐いたらしく、今も彼女に抱きつきたいのか腕を伸ばしている。


 言葉で意思の疎通ができない分、ボディーランゲージで表現しているのだ。


「さて、久しぶりに家に帰るとするか」


『…………(泣)』


 従魔契約をしているのでロックの心情が伝わってくる。


 家にフェニがいることを思い出したのか、ロックは俺の手の中で膝と手を着きうなだれていた。


 無理もない。最初にフェニに脅されて以来会っていないのだ、苦手意識が残っても仕方ない。


「安心しろって、フェニも良い子だからすぐに打ち解けられるぞ」


『…………(怖)』


 そんなロックを安心させるべく俺はそう声を掛けるのだが、俺がどれだけ宥めてもロックは震えが止まらず、結局、屋敷に着くまで俺の腕にしがみ付いているのだった。



「数日見ない間に少し大きくなりましたね?」


 数日ぶりに家に帰ると、セリアが出迎えてくれた。


「俺がいない間、留守番してくれてありがとうな」


 彼女を信頼しているからこそ安心して家を空け、ロックに付き添うことができたので感謝している。


「いえいえ、少しでも兄さんの役に立ちたかったので……」


 セリアはまるでそうするのが当然とばかりに言うと、しげしげとロックを観察し始めた。


「この輝き、もしかしてスカーレットダイヤでしょうか?」


「その通りだけど、よくわかったな?」


「ええ、この前ロックちゃんが手に持っているのを見ましたからね」


 なるほど、セリアは普段からよく周囲を観察しているので、ロックの現状から推理したらしい。


『ピーーーィ?』


『…………&』


 フェニとパープルが宙に浮かびロックに顔を近付ける。二匹は威圧しているつもりはないのだろうが、いつでも自分を倒せる存在が至近距離にいるというのはとても怖いらしい。


『…………(大恐慌)』


 ロックは飛び上がると俺の腕をよじ登り、首の裏に張り付き二匹から姿を隠した。


「随分と動きが機敏ですね。ゴーレムはもっと鈍いイメージがあったのですけど」


 身軽なロックを見てセリアは驚く。


「うちのロックはその辺がそこらのゴーレムとは違うようなんだ」


 動きは速いし愛嬌もある。ゴーレムコンテストがあれば優勝を狙える逸材だと俺は思っている。


「フェニ、あまり虐めるなよ? パープルも仲良くしてやってくれな?」


『ピピピィ』


『…………$』


 フェニは不満そうな顔をし、パープルは任せろと言う意思を伝えてくる。


 三匹が仲良くなれるように、しばらくは気を配った方がいいだろう。


「そっちは何か問題は起きなかったか?」


「フェニちゃんもパープルちゃんも良い子にしてましたから、普通に食事をして掃除をして、勉強して、合間に二匹と遊んでいたくらいですね」


 留守の間のことについて聞くと、セリアは自然に答えを返す。


 彼女が要領の良いことは長年一緒に暮らしていて知っている。この二匹の世話をしつつ自分の勉強までやっていたらしい。


「それと、パープルちゃんをブラッシングした際に、鱗粉が採れたので袋に詰めておきましたよ」


 セリアが離れた場所に置いてあった袋を取ってきて口を開ける。レインボーバタフライの鱗粉は我が家の収入源でもある。


『…………(大歓喜)』


 次の瞬間、頭に感じていた重みが一瞬で消えた。


「きゃっ!?」


 ロックが俺の頭によじ登り、ジャンプして袋の中に落ちたのだ。


 ――ゴトッ――


 袋ごと地面に落ち、鈍い音がする。


「大丈夫か、セリア?」


「わ、私は平気ですけど、ロックちゃん大丈夫でしょうか?」


 結構鈍い音がしたのだが、鱗粉が緩衝材となっているので平気だろう。


 事実、袋の中でロックがごそごそと動いていた。その動きは先日鉱石を取り込んだ食事風景に似ている。


「まさか、鱗粉も食べられるのか?」


 俺は驚くとロックの様子を伺った。


「どういうことですか?」


 セリアが俺を見上げ説明を求める。


 俺はゴーレムの生態と成長過程について今わかっている内容について彼女に伝えた。


「それ……もしかすると、凄いことになるのかもしれませんよ?」


 一通りの説明を終えると、セリアは口元に手を当て考える。


「ミスリルゴーレムは何より魔力伝導率の高さから魔法による攻撃が効き辛いゴーレムです。ロックちゃんはその再現ができますし、さらに言えば、色んな鉱石を取り込むことで、これまで世界に存在していなかったゴーレムが生まれる可能性があります」


 それこそオリハルコンやヒヒイロカネなど伝説の金属を体内に取り込むことができれば、それは世界で唯一の存在となるのだという。


 もっとも、そんな伝説の金属なんてみたこともないので、机上の空論だが……。


「レインボーバタフライの鱗粉を取り込めば少なくとも魔法耐性は高くなりそうだよな?」


 今もロックは袋の中でジタバタと動いている。ここ数日観察した感じからみても、おそらく鱗粉を取り込んでいるに違いない。


「だからこそ、与えるべき食事は兄さんがきちんと考えるべきかもしれません。ロックちゃんがどのような成長を遂げるべきか、主として決めてあげないと」


 俺はセリアの忠告を聞きながら、今後どのようにロックを成長させていくべきかについて悩むのだった。

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