第55話 ロックの産み出す宝玉の価値

「ありがとう、ロックちゃん」


 セリアは足元まで食器を運んできたロックに礼を言うと受け取った。


 数日が経ち、ロックもこの屋敷での生活に慣れてきたのか、色々と動き回るようになったのだ。


 身体こそ土や鉱物で出来ているが、手足の構造は俺たちとそう変わらない。


 俺やセリアの動きを真似して家事を手伝うようになった。


『ピィィィ』


『…………#』


 そんなロックを見てフェニとパープルが鳴き声を上げる。


 何やら複雑そうな顔をしてロックを見ている。セリアの役に立っているロックを見て嫉妬しているのだろうか?


「フェニ、パープル。外に行こう。久しぶりに遊ぼうか?」


 それぞれに役割があるだけで別にきにすることではない。俺は二匹の気をそらすと外へと誘った。


『ピィ!』


『…………♪』


 俺が誘うと、二匹は嬉しそうに肩へと乗る。


 数日の間、ロックに付きっ切りだったせいか、二匹とも普段より甘えてくる。


「重いぞ、フェニ、パープル」


 フェニが頭に乗りパープルは肩に止まっているのでバランスが取り辛い。


 それでも庭に出ると二匹は楽しそうにそこらを飛び回り始めた。


 引っ越してから数週間程が経過した。その間に鉱石収集をしたり、ロックの研究で研究施設に籠っていたからか庭の整備がそれほど進んでいない。


 かろうじてフェニやパープルが遊べる敷地は確保してあるが、これを片付けるのは大変そうだ。


 そんなことを考えていると……。


「兄さん、大変です!」


「どうした?」


 セリアが慌てた様子で俺に駆け寄ってきた。


「ロックちゃんが急に動かなくなったので見ていたんですけど……」


「ああ、それはロックが取り込んだ物質の中から要らないものを排出してるだけだよ」


 研究施設でも数度その行動を取ることがあった。身体から不要な砂を輩出する姿を見て驚いたのだろう。


 ところが、セリアは何やらキラキラと輝く宝玉のような物を持っていた。


「ロックちゃんがこれを排出したんです!」


 彼女は告げる。


「こんなの貴族の友人も持っていませんよ!」


 太陽の光を浴びてキラキラと輝く、これまで見たことがないような【スカーレットダイヤ】の宝玉が作り出されていた。




「ゴーレムは成長すると同時に、これまで取り込んだ中で不要な物質を排出する。その際に、固めて出すということがこの前わかりましたけど、まさかこんな物まで生み出せるなんて」


 係員さんにスカーレットダイヤの宝玉を見せたところ、とても驚かれた。


 ゴーレムの生態について面白い事実が判明したので報告に来てみた。


「この宝玉にはまったく魔力が残っていないんですよ」


 魔力を測定する魔導具をかざす係員さん。


「つまり、ロックちゃんは鉱石の魔力を取り込んでいらない部分を排出しているということですね」


 今のロックの身体にはレインボーバタフライの鱗粉が付いている。


「つまり、いずれはこの鱗粉も宝玉になって排出されるってことでしょうか?」


「おそらくその可能性が高いかと……」


 俺は現時点でロックが可能なことについて係員さんに確認を取る。


「本来、レインボーバタフライの鱗粉は金属に混ぜ込て武器や防具に使うという方法で利用していましたが、もしこれを宝玉にできるなら利用方法が広がります。欲しがる方が増えますね」


『…………(謎)』


 俺と係員さんの話を聞いてロックは首を傾げる。話が難しくて理解できないのだろうが、構って欲しそうにアピールをしている。


 無理もない、ロックにしてみれば生きるために不要な排泄をしているだけで、その残骸が価値を持つなど想像外なのだろう。


「そうすると、今後はプチゴーレムをテイム狙いする人も増えそうですね」


 正確に検証を重ねる必要はあるが、目の前で現象そのものは確認できているので、この事実を公表すればプチゴーレムを探しに行くテイマーも増えそうだ。


「確かに増えるでしょうけど、そもそもそう簡単にテイムできるとは思えません」


 係員さんは俺の言葉を肯定しつつ難色を示した。


「どうしてですか?」


「これまでも多くのテイマーが様々なモンスターを従魔にしてきましたけど、プチゴーレムはクラウスさんが初めてです。つまり、それだけ従魔にし辛いモンスターということなんですよ」


 係員さんの言葉に頷ける部分がある。


 俺がロックを従魔に出来たのは女神ミューズに似た声が教えてくれたからだ。


「実感があるかもしれませんが、クラウスさんはわりと規格外なんですよ?」


「まあ、そうですよね……」


 女神ミューズの加護を得て『孵化』の能力を覚えた俺は、死にかけていた時とはまったく別人のようになっている。


 身体能力の向上や、従魔との絆。短い期間で多くのものを得ることができた。


「なので、このことを公表すればまた大きな騒ぎになるのが想像できますね」


 いつしかの授与式で感じたような視線を受けることになるかもしれない。彼女の言葉で当時を思い出していると……。


「お蔭でうちのギルマスは最近大変みたいです」


「レブラントさんが?」


 思いもよらぬ名前が出てきた。


「クラウスさんは突如王都に現れて一足飛びに国家冒険者になった将来有望な若者です。しかもフェニちゃんやパープルちゃんという強力で希少なモンスターと従魔契約までしていて、その素材をテイマーギルドに一任していますから」


 改めて言われるととても信じられない経歴だ。


「ギルマスは後見人の一人ですからね。仲介人になって欲しいとか、依頼を受けさせろなどの手紙がひっきりなしに届くようですよ」


「それは、申し訳ないです」


 マルグリッドさんとレブラントさんは俺が貴族や商人の策謀に巻き込まれないよう防波堤となってもらっている。


 当人たちも了承済みなのだが、大変だということを他の人間から聞かされると罪悪感もわこうかというもの……。


「このタイミングで公表したら、今の数十倍手紙が殺到してギルマスが過労死するかもしれませんね」


「……公表のタイミングはお任せします」


 他のプチゴーレムでも同様の現象が起きるのかもわからないし、ロックの生態についてすべて調べられたわけでもない。


 後で絶対面倒ごとに巻き込まれることになるので、今の段階での公表は避けるべきと判断した。


「それじゃあ、ロックが生み出す宝玉に関しては俺の屋敷で保管しておきます」


 売ると注目を浴びてしまうので、勿体ないが貯めておけばよいだろう。


「レブラントさんと話して問題がないようなら知らせてください」


「ええ、ギルマスが倒れなければいいんですけどね」


 係員さんがありえる想定を口にして苦笑いを浮かべる。


 俺は係員さんにレブラントさんへの労いの伝言を託すと、ロックとともに屋敷へと引き上げていくのだった。

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