第27話 レインボーバタフライの鱗粉

『ピィ』


『…………♪』


 目の前ではフェニとパープルが向き合って意思の疎通を行っている。

 互いに視線を合わせ、フェニは鳴き声を上げ、パープルは触角を動かし羽根をパタパタと揺らしている。


 二匹から伝わってくる雰囲気は楽しそうで仲良くできている様子に俺はホッと息を吐いた。


 フェニが羽根を広げると、パープルが宙を飛び羽根に乗る。


『ピィピィ!』


『…………☆♪』


 パープルの触角がフェニの額に触れ、フェニも頭を動かしパープルとじゃれ合っている。とても微笑ましくて和む光景だ。


「こ、コホン」


 咳払いで意識が引き戻され、俺は正面を向いた。

 ここは先程までいた書庫ではなく、ギルドマスターの執務室。


「それで、クラウス君。もう少し詳しい話を聞かせてもらいたいのだが……」


 目の前にいる人物はテイマーギルドのギルドマスターのレブラントさんだ。

 執務室には他に係員さんしかおらず、現在俺はパープルがこうなった原因について事情を聞かれている最中だった。


「資料によると、パープルはハーブを食べる以外は特に変わった様子はなかった。何の兆候もなしに急に進化するなんてあるのか?」


 レブラントさんは頬を掻くとテイマーギルドで過ごしたパープルの生態調査書を読み頭を悩ませる。

 確かに、調査書から読み取るならその通りなのだが……。


「あの……多分きっかけ何ですけど」


「うん?」


 俺は調査書に書かれていないここ数日のパープルの言動について説明することにした。


「餌なんですけど、普通のハーブの他にクリスタルハーブを食べさせました」


「く、クリ……?」


「どうしてそんなものを!?」


 係員さんとレブラントさんが大きく口を開いて俺を見た。


「えっと、森の奥で発見して、パープルが欲しがったので……つい」


「いやいやいや、売れば相当高額になるレアアイテムだぞ。それを与えるなんて……」


 慌てた様子を見せるレブラントさん。俺はもう一つ言わなければならないことがあった。


「その他にもですね、糸で身体を囲む前には【ミニフライ】を糸で捕捉して食べてました」


「マジックワームが自らモンスターを倒して食べるなんて聞いたことがない!?」


 これだけで、うちのパープルが特殊なのだと理解してもらえたようだ。


「つまり、レインボーバタフライに進化させるためには、マジックワームをテイムした上でクリスタルハーブを食わせ、モンスターを倒して強くする必要がある?」


「ギルドマスター、最後に浄化の炎も浴びる必要があるかと……」


 係員さんが一連の流れを補足してくれた。


「どれだけ低い確率なんだか……。いや、クラウス君の言う以外にも方法があるのかもしれないが、とても現実的じゃない。これは情報を公開できないな」


「ですね、もし試されて成功しなかったらクリスタルハーブなどというレアアイテムを失う分相手も黙っていないでしょうから」


 もし途中でマジックワームが死んでしまったり、進化しなかったりすると情報を公開したテイマーギルドにクレームがきてしまうのだという。


「ひとまず、原因は不明ということにしておこう。検証のしようもないことだし」


「了解です。そのようにします」


 レブラントさんと係員さんはそう結論付けた。


「それで【レインボーバタフライの鱗粉】についてなんだが……」


 パープルがレインボーバタフライに進化した話が落ち着くと、レブラントさんはもう一つの件について触れてきた。


「これって、そんなに凄いアイテムなんですか?」


 入手した際にAランクアイテムと出た以上、そうとう使える素材なのだということは察するのだが、これまで聞いたことがないアイテムなのでどのような用途で使えるものなのか聞いてみた。


「レインボーバタフライの鱗粉とは、高価な魔導具に組み込まれる触媒の一つとして重宝されています。ポーションなどの薬剤も、一度この鱗粉を通すと効果が倍増すると言われており、錬金術士にとっては垂涎の品ですね」


 係員さんは説明を続ける。


「また、武器を作る際、金属に混ぜれば魔力伝導率の良い魔力剣を作ることができ、精霊やゴースト系のモンスターに威力を発揮しますし、防具に使えば魔法に対する抵抗力が格段にアップします」


「それって、かなり凄いことですよね?」


 魔導具にも武器にも防具にも使えるとなると需要が尽きることはないだろう。


「それで、どうする? テイマーギルドはモンスターの部位も販売してはいるが、提供を強制することはないんだ」


 話に聞いたところ、モンスターから抜け落ちる毛や羽根、鱗、その他にも生え変わった際の牙や爪などは買い取ってもらうことができるらしい。


 テイマーギルドは貴重な素材を確保でき、テイマーは直接自分で購入先を探さずとも資金を得ることができる。

 モンスターによっては、食費や住居費がかさんだりするのでこの辺のシステムはお互いにメリットがあることのようだ。


「創始者のレッドドラゴンの鱗もここで扱っているんでしたよね?」


 このテイマーギルドを創立させた貴族も、レッドドラゴンの鱗が生え変わるたびに確保してはテイマーギルド経由で販売をしている。

 そのせいもあってか、テイマーギルドは王都では欠かせない存在となっているのだ。


「無理に鱗粉を出させるつもりはありませんが、手に入った分の販売はお任せしようかと思います」


「そうか、その決断に感謝をする」


 レブラントさんはそう言うと頭を下げた。


 レアアイテムをテイマーギルドに預けることはこちらにもメリットがある。

 そうしておかないと、商人や貴族が個別に取引をしようと持ち掛けてくるのらしく、それをいちいち断っていたらいつまでたっても冒険に行くことができなくなるからだ。


 あくまで、フェニやパープルに無理のない範囲でしかレアアイテムを卸すつもりがないので、テイマーギルドに窓口になってもらい、他の顧客との調整を行ってもらうつもりだ。


 俺はそのことについてレブラントさんに告げる。


「勿論だ。人とモンスターが仲良く暮らすことこそがテイマーギルドの存在意義だからな、任せてくれたからには悪いようにはしない。フェニもパープルもきちんと守るつもりだ」


 レブランドさんの心強い言葉に俺は頷く。


「あと、もう一ついいか?」


「まだ何かあるんですか?」


 話はこれで片付いたと思ったが、レブラントさんにはまだ用件があるらしい。


「クラウス君は確か、国家冒険者試験を受けているとか……」


「ええ、まあ」


「希少なモンスターをテイムしているのなら確かに資格はあった方がいいだろうな。ボイル伯爵家の人間も大体資格を持っている」


 テイマーギルドを創立させた貴族の家らしい。希少モンスターをテイムした人間はトラブルに巻き込まれることが多いので、資格取得をするのだと説明してくれた。


「まだ推薦人が決まっていないのなら、私に推薦させてくれないかね?」


 一通り説明を終えると、レブラントさんはそう提案をしてきた。

 ギルドマスターは推薦人の権限を持っているので後ろ盾になってくれるようだ。


 今の時点で一人の推薦人も集められていない俺にしてみれば願ったりの状況だ。


「是非、宜しくお願いします」


 俺は彼に手を差し出すとその提案を受けることにした。


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