第61話 妹がいる朝食

 まな板を包丁が叩く音と香ばしい香りが漂ってくる。


 どこか懐かしいリズムにまどろんでいるとドアが開く音がした。


「兄さん、朝食ができましたよ」


 肩が揺すられ俺は目を覚ます。


「ん……もうそんな時間か?」


 目の前には制服の上からエプロンを身に着けたセリアの姿があった。


 先日から彼女が屋敷に引っ越してきたのだと寝ぼけた頭で思い出す。


「すぐに食堂に行くよ」


「はい、お待ちしておりますね」


 着替えてから向かうことを伝えると、セリアは眩しい笑顔を向けてきた。


(そういえば、学校までの距離が遠くなったから早起きなのか)


 普段よりも早い起床時間、その理由に気付いた。


 着替えを終えて食堂に向かうと、テーブルに二人分の朝食が用意されていた。


「いただきます」


「はい、召し上がれ」


 二人で食事を摂っていると、日常なのに少し違和感があるというか……それでいて妙にしっくりくるような感覚を覚えて不思議な気分だ。


 実家に住んでいたころは隣り合って座っていたセリアが正面にいるからか? それとも、しばらく離れて暮らしていたので、久しぶりに彼女がいる朝食に実感がわかないのだろうか?


「うん、美味しいな」


 用意されているのは野菜を煮込んで味付けしたスープと焼きたてのパン、そしてサラダ。


 どれも実家に住んでいたころに毎日食べていたのだが、慣れた味と言うのは安心できる。


「良かったです。お母さんから作り方を教えてもらったんです」


 両親が屋敷に滞在中、セリアはよく母親と話をしていたが、その時に料理について教わっていたらしい。


「お母さんがいない間は、私が兄さんの健康を管理するように言われてますからね。これからは毎日料理します」


 セリアは気合が入った様子を見せると俺にそう告げた。

「あまり無理はするなよ?」


 あくまで、俺はセリアを家政婦として住ませているわけではない。学業のために王都に留学してきているのだから勉強が優先。成績が落ちるようなことがあってはならない。


 そのことについては一緒に住む前に口を酸っぱくして話してある。


「これは私の趣味みたいなところもありますので平気です」


「うん? お前、料理そこまで好きだったけ?」


 実家にいたころ、よく母親の手伝いをしている姿は見たが、そこまで熱心に料理をしていただろうか?


「違います。私の趣味は兄さんのお世話をすることです」


 俺の疑問に、セリアは笑顔で答える。


「ああ……」


 それならば納得がいく。確かにセリアはことあるごとに俺の世話をやきたがった。


 部屋の掃除やら、着る服を選んだり。


 妙に甲斐甲斐しいとは思っていたのだが、趣味だと言われると納得できてしまう。


「さて、それでは私は学校に行ってきますね」


 食事を終え、洗い物まできっちり片付けたセリアはエプロンを外すと学校に向かう。


「それなら、俺も一緒に出るよ」


「はい、わかりました」


 今日はテイマーギルドに用事があるので、セリアと一緒に出掛けるのも丁度良い。


 俺は準備をすると、彼女と一緒に屋敷を出るのだった。

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