第30話 セリアとモフモフの邂逅
パーティーの警備から一週間が経過した。
あの日、マルグリッドさんが約束してくれた通り、翌日には俺は国家冒険者試験の本試験へと進むことができると通達を受けた。
護衛依頼までは待機を言い渡されたので、こうしてアパートに籠りながら続報を待っているのだが……。
「ふふふ、可愛いですね」
ベッドに横たわったセリアはフェニとパープルを指で突きながら楽しそうにしている。
今日は学校が休みということで遊びにきたようだ。
元々、フェニと合わせるという約束だったのでちょうど良い機会だった。
初めてフェニとパープルを見たセリアは、目を輝かせると二匹を可愛がり始めた。
『チチチチチチ』
『…………♪』
テイマーギルドで多くの人に可愛がられてきたフェニとパープルも慣れたもの、セリアからの接触に対し特に嫌がる様子を見せずそれどころか嬉しそうにしている。
セリアは俺が教えた通り、フェニとパープルのアゴを撫で続けている。
ひとしきり楽しんだセリアは、身体を起こしフェニを胸に抱くと俺を見た。
「それにしても兄さん、この部屋狭くないですか?」
俺が借りているアパートは一般的な住居に比べて狭い。
実家は一軒家で、それぞれの部屋もあり、庭や飼育小屋まであったのだが、ここはベッドを置くと部屋の半分が埋まってしまう。
フェニックスの卵を孵化させるため、格安だったから借りただけなので仕方ない話だ。
王都にはこのように単身向けのアパートが数多くあり、職人の弟子や稼ぎの少ない人間が大勢暮らしている。
「まあ、確かにそうなんだよな……」
フェニが孵化してから約一ヶ月が経過した。
最初は小さかったフェニも段々と大きくなってきており、翼を広げると壁に羽根がついてしまうくらい窮屈になっている。
「それもそうなんだけど、引っ越すにしてもな……」
普通のアパートは従魔禁止のところが多い。
このアパートにはそのような規約がなかったので暗黙の了解で住んでいるが、一般的な家族が暮らす住宅街ともなると、モンスターに対する理解も得られていないので、引っ越した先で無用なトラブルに巻き込まれることも考えられる。
そうならない為には、引っ越し先はきちんと調査してから決めたいのだ。
俺がそのことをセリアに説明すると、
「そうですか、もし家を借りるのなら、私もそちらに引っ越して兄さんとフェニちゃん、パープルちゃんの世話をしようかと思ったのですけど」
どうやらセリアは本格的にフェニとパープルを気に入ったらしい。
一緒に住めばこの二匹に触り放題なので、そうしたい気持ちは非常によくわかる。
フェニを抱いて寝る時の幸福感は何にも代えがたいのだから……。
確かに、セリアが一緒に住むことには大きなメリットがある。
まず、セリアは家事が得意だし、俺も仕事がら家を空けることが多いからだ。
フェニやパープルも、毎回仕事に連れて行けるわけでもないので、面倒をみてくれるというのは助かる。だが……。
「今は俺のことよりも学業を優先するべき、だろ?」
彼女にも夢がある。それは俺やフェニやパープルの面倒をみながら実現できるほど甘いものではない。
「二匹はテイマーギルドでも預かってもらえるし、俺だって家事は一通りできる」
今、学校でしか学べないこともあるだろう。俺はセリアをそう説き伏せた。
「確かにその通りですね……。でも、時間ができたらまたこうして会いに来てもいいですか?」
セリアはそう言うとじっと俺の様子を窺がう。
「それは勿論、俺たちは家族なんだから。いくらでも訪ねてきてくれて構わないぞ」
彼女は俺の答えにホッとすると、口元に手を当て嬉しそうにした。
――コンコンコン――
そのタイミングで、部屋のドアがノックされる。
王都に来てから、このドアが叩かれたのはセリアが訪ねてきた時だけ。
「はい、どちら様ですか?」
ドア越しに俺は相手の様子を探る。
セリアはフェニをギュッと抱きしめるとドアが開いても見えない位置へと移動し、パープルはセリアの髪に止まるとパタパタ羽根を動かした。
「クラウスさんに手紙を届けに来ました」
ドアを開け、手紙を受け取る。
配達員さんに礼を言い、ドアを閉めて戻る。
「お父さんとお母さんからですか?」
セリアが手紙の送り主について興味深そうに聞いてくる。
俺は手紙の差出人の名前を見てみた。
「いや、違うな」
「だとすると、どなたからなのですか?」
セリアとフェニとパープルが一斉に首を傾げる。三人の瞳が俺に向けられるのだが、その仕草があまりにも可愛かったので一瞬見惚れてしまった。
「手紙を送ってきたのは国家冒険者機構だよ」
俺は手紙を開封し、中身に目を通しながらセリアにそう答える。
「そうすると……いよいよなんですね」
セリアが真剣な表情を俺に向けてくる。
「ああ、いよいよ俺の本試験が始まる」
手紙には集合日時と場所、そして日程が記載されていて……護衛対象については一切触れられていなかった。
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